sweets,Inc.

□brownie
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「へぇ、意外。あんたこんな店で買い物するんだー」
巨大なケーキの残りを一人で頬張っていたキルアが、フォークをくわえたまま大袈裟に驚いて見せる。

確かにこのプレゼントは、お洒落にも流行にも無頓着なクラピカらしくない。
俺もそう思った。
でもその理由は知りたくない。

「このブランドの物ってさあ、この辺だと最近出来た会員制のセレクトショップでしか買えないよね?うちの母親が大騒ぎして早速買いに行ってたよ」

キルアよ、俺の気持ちを察してくれ。

「あんたあの店の会員なの?入会費とかめちゃくちゃ高いし、審査もすっげー厳しいのに」
「まさか。会員なのは私ではなく…」

そこから先は。

「ああ、あのオジサンなカレシね」

クラピカが言い淀んだ語尾をすくい上げて茶化すキルアの言葉に、俺はがっくりと脱力した。

「オっ、オジサンではないと言っただろう」
照れた顔がまたどうしようもなく子供っぽくて可愛くて。
お前にそんな顔をさせる男の話は聞きたくない。
聞きたくないぞ、俺の誕生日なのに。


大きく一回深呼吸して
「おまえなー、人の誕生日プレゼントを彼氏に選ばせるなよ」
とにかくいつもの憎まれ口で話題を変えたかった。

「選ばせてなどいない。身に付ける物にやたらとこだりのある奴へのプレゼントは何が適切かと悩んでいたら、この店がいいのではないかと連れて行ってくれただけで、あくまでも選んだのは私だ。私の手が届く範囲で選んだのでたいした物ではないが…不満か」
拗ねたようにだんだん小さくなる声。
ふい、とそらす蜂蜜色の瞳。

きっとクラピカは自分の恋人の穏やかでない心中になど気付きもせず、誠実に俺への贈り物を選んだのだろう。
俺へのプレゼントを選ぶクラピカの横で嫉妬の欠片も見せずに、親切なアドバイスの一つもしていたであろう彼氏を思うと、何となく優越感を感じないこともない。

「不満じゃない、不満じゃねーよ」
出来るだけ平静を装って包みをほどくと、クラピカが一人で選んだとは到底思えない、センスのいいネクタイが入っていた。

確かにクラピカは鈍い。
男心なんて全く分かっちゃいねえ。
でもその鈍感さを利用して、自分の存在を色濃く反映させたプレゼントへ誘導するなんて、フェアじゃねーよなあ。


「わー、格好いいネクタイだね」
「これマジであんた一人で選んだ?」
無邪気に騒ぎ立てるお子様コンビが恨めしい。

「これなら医者になって、それなりの場に出るときにも使えると…」
「カレシが言ったの?」
「違うっ!お店の人にアドバイスをもらったのだ!」

クラピカが完全に拗ねてしまう前に俺は恭しく礼を言って、もらったばかりのネクタイを部屋着のシャツの上に締めて見せた。

「へえ、結構いいじゃん、ネクタイが」
「まあ俺くらいの人間になれば何を付けても様になるってもんよ」
キルアの嫌味をさらりとかわすと、クラピカがふんわりと微笑んで。

それは俺に向けたもんだよな?
ネクタイの向こう側に誰かを見ちゃったりしてないだろうな。

とにかく。
誕生日プレゼントを使って俺を牽制するような彼氏とは、一度直接対決しておかないと。
俺は密かにそんな覚悟を決めたのだ。



end
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