sweets,Inc.

□flower
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こ、ここ、寝室じゃないの?

だってそんな、心の準備は出来てるけど、でも、君って実は結構大胆で、ああどうしよう、君がこんなに待ち望んでいてくれたなんて、嬉しいけど、でも。
「部屋が狭いせいで父の本は全てここに置いてあるのだ。リビングの本棚には入りきらなくて…」

は?

「以前の私の父の本を全部見てみたいと言ってくれただろう?持っていない本を調べたいと。もちろん貸してもいいんだが、持って行くには数が多いし、直接見て選んでもらった方が早いと思って…」

はあ、そういえばそんなこと言ったよね、俺。

クラピカのお父さん名義の本がずらりと並ぶ本棚と、きちんと整えられた窓際のベッドを交互に見ていた俺は、ふいにとろりと澄んだ瞳にのぞき込まれてドキリとした。
全てを見透かされた様な気がして。

「…クロロ?」
俺の視線を追ってベッドを見た君は全てを悟ったように小さく苦笑した。
「あのベッドリネンは私らしくないだろう?」
確かに可憐で鮮やかな花柄が全体に舞い散ったベッドカバーやシーツは、この質素な部屋の中で浮いて見えた。

…見えたけど、でも別にいいよ。
俺は気にしないよ。
それよりも、どうしてかな。その先の話を俺は聞かない方がいいような気がしてるんだ。
そんな俺の心も知らず、君の透き通る声は話を続ける。
「あれは母が生前使っていた物なのだ。この街へ越してくる時に、母が使っていた物を何か持って来たくて…母が特別大事に扱っていたリネン類を持って来たのだ。私が使うには随分と少女趣味だろう…?」

そんなことない。そんなことないよ。
君がそのシーツの上に寝たら、きっと金の髪がよく映えて童話のお姫様みたいに綺麗だよ。

君の話を遠くに聞きながら、これ以上ないほど穏やかに相槌を打って。
そんな俺は今、上手に笑えてるかな…?

「つまらない話をしてしまったな。今お茶を入れてくるからどれでも好きな本を見ていてくれ。紅茶でよかったか?」
「…うん…」

君の繊細な後ろ姿を見送って、俺はベッドサイドに置かれた小さな椅子にくたりと腰を下ろした。

このベッドに。
君の大事な思い出が詰まった、お母さんの形見のシーツの上に、俺は君を押し倒す事が出来るだろうか。
…出来ない。
それはさすがの俺も出来ない。
それとも君はそんな可愛い顔をして、ベッド以外の所でするのが好き、なんて事はないよね。
ああ、君はどこまで分かってるの?
…何にも分かってないんだよね、きっと。


その後、一人の方が集中出来るだろうと気を効かせた君が、一人分の紅茶を持って戻って来て
「狭い部屋で申し訳ないがゆっくり好きなだけ本を見て行ってくれ。私はこちらの部屋で仕事をしているから」

そんなことを笑顔で言う君はやっぱりものすごく綺麗で、俺は小さく溜め息をつきながら本棚に手を伸ばした。


end
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