sweets,Inc.

□chocolate party
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気付いたら、クラピカのアパートの前でタクシーを降りていた。

2階の一番端が君の部屋。
明日の昼になれば君に会える。
ちゃんと待ち合わせの場所も時間も決めてある。
でも、ワッフル布のカーテンから漏れる柔らかい光を見てしまったら。
その向こう側に君がいると思ったら。

俺は自分で思うよりずっと我慢の出来ない男だったらしい。



* * * * *


「ク、ロロ?」

一目会えたらすぐに帰ろう。
そう決めてチャイムを押した、のに。

ドアの隙間から愛しい顔がのぞいた瞬間、俺は込み上げる衝動を押さえつける事に失敗した。

いつもより、ちょっと飲みすぎてたんだと思う。
そうだ、そう思おう。
全部アルコールのせいだと。

ぱちぱちと大きな瞬きを繰り返す君が何かを言うより早く、ドアの隙間に体を滑り込ませてその肩を引き寄せた。


本当に嫌なら。許せないなら。
思いきり突き飛ばして怒鳴り付けて。


俺の両腕の中にぴったりと収まった小さな体を思いきり抱き締めてみて、その肩が想像していたよりもずっと薄いことに驚いた。

「…クロロっ」
俺を咎めるくぐもった声が丁度心臓の上を叩く。

緊張してるのかな。
俺の胸の中で全身を強ばらせて、でも少しも抵抗しない君の金色の髪に顔をうずめると、清らかな白い花みたいな香りが淡く甘く匂い立って、俺は俗っぽいパーティーで汚れた自分が、内側から浄化されてく様な気がした。

煙草の煙。
尽きないアルコール。
きつい香水。
俺が身に纏わせて持ち込んだにおいは、君にはあまりにも相応しくないものばかりで。
こんな欲にまみれたにおいが君にうつってしまうのは嫌だな。

俺はそこでやっと我に返った。


腕の力を弱めると、君の白い両手がすかさず俺の胸を押して解放を求める。

「…ごめん」
何を言ったらいいのか分からなくて取り敢えず謝ると
「突然訪ねて来たことか、それとも突然抱きついたことか」
甘くとろける砂糖菓子みたいな瞳で、そんな厳しい事を聞くから
「両方だよ」
俺は素直に観念するしかなかった。

琥珀の瞳がじっと俺を覗き込む。
ただそれだけのことなのに、俺はなにか神聖なものに裁かれているみたいな気分になって、これなら怒られたり泣かれたりする方がずっと楽だと思った。

帰った方がいいんだよね。
分かってる。
一目会う以上のことが出来たんだし、明日のデートまで取り消しにされないうちに退散するよ。


俺はもう一度、ごめん、でも会えて嬉しかったと言ってドアノブに手をかけた。
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