sweets,Inc.
□polka dot
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****M:
「いくら洒落ることに疎い私でも、出掛ける前に鏡で身だしなみくらいは整える」
憮然とした表情をしても綺麗な子は綺麗なんだ。
アタシは小さく感心した。
「じゃあその時に何か思わないの?」
「何か…とは?」
「自分は可愛いとか綺麗だとか」
「な…っ、まさか、何故そんなことを」
助けを求めるような視線ですがる少女に
「君は可愛いよ。すごく綺麗だ、世界で一番」
クロロが当然だと言わんばかりに微笑む。
何だかいい加減ばかばかしくなって来た。
「とっ、とにかく私はナンパなどされていない!この街には貴女達のように綺麗でお洒落な女性が沢山いるのだ。わざわざ私なんかに興味を持つような物好きな男などいるはずがないだろう」
それは嫌味?。
確かにこの子よりお洒落な女なんて掃いて捨てるほどいる。
現にガラスの向こう側を横切って行く女達は、それぞれ華やかに着飾っているし。
でもそれがこの子より綺麗かと言えば。
「それ、謙遜のつもりなの…?貴女みたいな子なら今まで色んな人に綺麗かと可愛いとか言われてきたでしょ?」
「そんな馬鹿げたお世辞を私に言うのはクロロくらいだ。もちろん父や母には言われたが、親が子に可愛いと言うのは当然のことだろう?」
まあ…当然のことなのかもね。
アタシ達は、その当然を知らないけど。
「両親が亡くなった後世話になった父の後輩にも、今住んでいるアパートの友人にも、お前は男か女か分からないとか可愛いげがないとかそんなことばかり言われているのだ。どうして自分を可愛いなどと…」
「ねえ、その後輩とか友人は男?」
「ああ、そうだが」
やっぱりね。
精巧な作り物みたいに整った顔立ちと、何の飾り気もない衣服に包まれた華奢な体つきは、確かに中性的ではあるけれど。
きっとその不躾な男達は、そんな憎まれ口でも叩いていなければ自制心を保てないんだろう。
意地悪をすることでしか自分の好意を表現出来ない子供みたいに。
あ、クロロが怒ってる?
いや、焦ってるのか…思いの外、クラピカの回りに男の影があることに。
でも、何だかんだ言っていい線行ってるんじゃない?
上手く伝わっていなかったにせよ、この子に分かりやすい形で自分の気持ちを伝えてるの、クロロだけみたいだし。
とにかく、もうこんな面倒な事に関わり合うのは二度とごめんだった。
アタシのキャラじゃない。
でも、クロロの下らない相談が少しでも減るのなら。
長々としたノロケまがいの愚痴を聞かずに済むのなら。
あとほんのちょっと、この二人を後押ししてやってもいいか、アタシはそんな気になっていた。
だから。
「突然話を変えるけど、言い忘れる前に言っとくわ。これがさっき話してたパク。クロロの恋人じゃなくて、秘書のパクノダ」
「こいびとぉ?!」
クロロとパクの声が大袈裟に重なった。
ああ、また店中の注目を浴びてるじゃない。
せっかくこの店気に入ってるのに、来にくくなっちゃう。