sweets,Inc.

□polka dot
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****C:

何故クロロが顔色まで変えて大騒ぎするのか、私にはさっぱり分からなかった。

確かに田舎暮らししかしたことのない私はこの街には馴染んでいないと思う。
物欲しそうな顔をしているつもりなど全くないのに、食事やお茶にやたらと誘われるのは、私がよっぽど頼りなく見えるからなのかと。

この街に越して来るまで世話になっていた、私の身元引受人である父の後輩から、都会は仕事や勉強に励むには便利な所だが、同時に怖い場所でもあると聞かされていた。
しかし、見ず知らずの私を気にかけて声をかけてくれる人が沢山いるのだから、言うほど悪い場所ではないのでは、とさえ思っていた。
まあ、実際のところ初対面の人間の世話になる気にはなれなかったし、ごくたまに、今日のようにしつこくされて困ることもあったけれど。

だから、それをナンパと言われて私は心底驚いたのだ。
「ナンパというのは、男性が自分の好みに合った女性に声を掛けて、同意が得られれば一緒に食事をしたり出掛けたりする行為のことだろう?」
「だからまさにさっきアンタがされたことでしょ、それ」
「…私を女性として好むような物好きな男性などいるのだろうか?」

私の様に何の愛想も飾り気もない女でも、恋愛や性の対象になり得るという点では、確かに都会というのは怖い場所なのかもしれない。
私はそう思った。



****P:

クロロが静かに落ち込んでる。
そりゃそうよね。
この3ヶ月のアプローチが全然効いてなかったんだから。

恋愛に限らず、自分の方から何かに対してこんなに一生懸命アプローチしたのって、生まれて初めてだったんじゃないかしら、この人。
それが全く効果なしとは。

マチはさっさとこの場を離れたいみたいだったけど、私は何となくクロロを放っておけなくてコーヒーを4つオーダーした。

「アンタ、鏡で自分の顔見たことないの?」
「マチ、クラピカのことをアンタっていうのはやめろ」
「私は別に構わない」

だから今気にするのはそこじゃないでしょう。
そんなことを思いながら、私は目の前の少女をまじまじと眺めた。

そして。
あまりにもクロロの話通りなことに笑ってしまいそうになった。
名前しか知らないはずこの子を見て、マチがクラピカだと言い当てたのは、きっとその勘のせいだけじゃない。

クロロから連日歌うように聞かされた、少女に捧げる美辞麗句が浮かんでは消え、この子になら似合うかもしれない、と。
さっき見たあのティアラを、この少女の頭上に掲げてみたいと思うクロロの気持ちが少し分かった気がした。
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