sweets,Inc.

□cherry tower:side P
2ページ/5ページ

数えるのが嫌になる程のゼロが並んだプライスカードにうんざりしながら、隣に立つクロロの表情を密かに盗み見て、私は更にうんざりした。

何、この夢見る乙女みたいな顔。

このまま放っておいたら、すぐにでも店に飛び込んで一式買い揃えちゃうわね。
別にクロロが恋人にどんな高価な物を買い与えようと私には関係ないことなんだけれど。
このむやみに豪華なジュエリーは、今まで切実な相談だからと言いながら単なるノロケ話として散々聞かされてきた愛しの彼女―9歳も年下で慎ましやかに一人暮らしをしているらしい―には余りにも必要のない物の様な気がして。
思わず余計なアドバイスをしてしまったという訳。

「引かれる…そうかな…そうだよな、やっぱり。キスもしたことない相手からこんな物貰っても引くよな」
キラキラとダイヤにも負けない輝きでショーウィンドウを見つめていた黒い瞳が一気に現実に戻って来る。

ああ、よかった。これでやっと事務所に戻れるわ。
でもちょっと待って。今、聞き流せない一言がなかった?

私はわざとらしく咳払いをして
「…キスもしたことないって…まさか本当にしてないんですか?」
「ああ」
「知り合って3ヶ月も経つのに?」
「ああ」
「週末毎にデートしてるんですよね?」
「ああ」
「なのに…してないんですか?」
「ああ」

まさか、信じられない。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ