sweets,Inc.
□brownie
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ゴンの家で開かれた俺のための夕食会。
いい加減、誕生日を祝われて嬉しい歳でもないが、気心の知れた友人達と囲む笑いの絶えない食卓は、温かい故郷を想わせて、学業に追われる身も心も和ませた。
ゴンのばあちゃんとミトさんの手料理は言うまでもなく。
ゴンとキルアがデコレーションしたというバースデーケーキも、見た目はともかく、たっぷりと親愛の情が込められていてお世辞抜きに旨かった。
故郷を一人離れて柄にもなく進学の道を選んだことに、全く不安がなかったと言えば嘘になる。
けれど俺はこの街の医大に合格して、そしてこのアパートを下宿先に選んで本当によかったと思った。
ミトさんを手伝って食後のコーヒーを配っていたクラピカが俺の傍らに立つ。
初めて会った時の印象はお互い最悪で、けれど、少しづつ距離を縮める中で知ったその素顔は、今まで付き合ったどんな異性よりも不器用でまっすぐで。
いつの間にかもっとこいつを知りたい、もっと近くで色々な表情を見てみたい、そんなふうに思うようになっていた。
それなのに、俺がやっと自分の気持ちと向き合う気になった頃、こいつは週末毎に出掛けて行くようになっていて。
ああ、そうか、俺は出遅れたんだと。
努めて無関心を装っても、思わず視線をさらわれてしまうくらい、ほんのりと甘く柔らかくなった仕草や表情を見て、もうこいつには何も期待してはいけないんだと思い知った。
それでも。
ほっそりとした白い手を差し出されただけで、俺の心臓は笑ってしまうほどに跳ね上る。
本当に笑うしかないくらい。
「誕生日おめでとう。お前の趣味に合うかどうか分からないが、ほんの気持ちだ」
そう言いながら手渡されたのは、俺も一度は拝んでみたいと思っていた、この街には直営店のない超有名ブランドの小さな包みだった。