sweets,Inc.
□Truffe Champagne
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固く絞った雑巾を手に、クラピカが目の前をひらひらと通り過ぎる。
手際よくリビングの大きな窓を磨く度に、金の髪が穏やかな日差しを弾いてきらきらと輝く。
お前はここを動くな、ときつく言い渡されてソファに強制的に座らされ、数冊の雑誌や小説を与えられたのは、どのくらい前のことになるだろうか。
本当なら大晦日は某テーマパークに併設されたホテルのテラスルームから、カウントダウンのショーを観て過ごす予定だった。
正攻法での予約は至難と言われるレアな部屋の手配も、俺の手にかかればちょろいもの。
真夏の炎天下、クソガキ共に連れ出されて苦い思いをしたテーマパークではあるが、ホテルの部屋でゆっくり過ごせるのならば、と人混みが苦手なクラピカも楽しみにしてくれていた…はずだった。
それが年末の休暇に入る直前、数年振りでパクに大本命の恋人が出来たことで状況が一転した。
何気ない会話の中で、某テーマパークの某ホテルで恋人と新年を迎えることが、パクにとって長年の夢だったと聞いたクラピカが、今回の宿泊権をパクとその恋人に譲れないだろうか、と言い出したのだ。
俺とクラピカが今のような関係になる過程において、パクがどんなに貢献してくれたか。
そんな彼女にどれほど感謝しているか。
クラピカはとうとうと俺に語って聞かせた。
そりゃ俺だってパクには感謝している。
でもそれとこれとは別なんじゃないか、そう言おうとして。
―お願いだ、クロロ。
澄みきった琥珀の瞳が上目がちに俺をとらえた。
君にそんな目で見つめられて、逆らえる男なんているのかな。
何だかもう俺は全力で君の望みを叶えなくちゃならない気になって、分かった、と固く頷いて、あっさり某ホテルの宿泊権を手放した。
ただ、空白になってしまった年末年始の予定はどうしよう。
今から押さえられるリゾートホテルなんてあるだろうか。
よりよい年末休暇を過ごすための、新たな宿泊地を探すべく、パソコンを立ち上ようとした俺の手を君がやんわり制した。
―せっかくクロロが考えて手配してくれた予定をふいにしたのは私だ。
この埋め合わせは責任を持って私がしよう。
そしてクラピカが大晦日はどこにも出掛けず、俺の家の“オオソウジ”をするのだと宣言し、宣言通り早朝から俺の家にやって来て今に至るという訳。
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