sweets,Inc.

□candy girl
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上手か下手かと聞かれたら、多分上手なのだと思う。
初めてのときでさえ、最初こそ苦痛であったけれど、その腕の中で右も左も分からなくなるような感覚に溺れたのだから。
私自身はこの先クロロ以外の異性とそういった行為に及ぶことはないだろうと確信していたが、クロロはどうなのかと問われれば、その真意は分からない。
基本的にクロロはとても優しいし私の体を労ってくれるが、それでももう少し自重して欲しいと思うことの方が多い。
故に指摘を受けるまで、クロロが私との行為に飽きる日が来るかも知れないという可能性については考えたことがなかったのだが。

確かにそういうことは十分にありえると思う。

聞けばクロロは女性経験が随分と豊富なようだし、それ以上に、クロロと関係を持ちたいと熱望している女性は大勢いるらしい。
実際一緒に出掛ければ、クロロの立ち振る舞いに見とれている女性達の眼差しに気付くことも多い。
今日だって夕食のために立ち寄ったレストランで、クロロの希望した店の一番奥まった場所にある席へ案内される間中、女性客等の視線に晒される羽目になった。
うっとりとした視線がクロロを追い、次いで隣を歩く私を捉え、そして、何故だかとてもがっかりしたふうに逸らされるのは気のせいではないと思う。

ふさわしくない、と。
そう言われても仕方がないのかもしれない。
私自身、自分が何故クロロに選ばれたのかよく分からないのだから。

更に聞くところによれば、クロロは気が多い質なようで、一人の異性と長く関係が続いたためしがないらしい。
故に私との関係も普遍的に続くとは断言し難く、けれど今、クロロが目の前からいなくなったら、私はどんな気持ちになるのだろうか。
それはあくまでも想像の域を越えることはないが、きっと両親を失った時のように淋しく悲しいに違いない。

つまり、私のように女性らしい魅力に欠ける女が、知力・財力・ルックス共に恵まれたクロロのような男性と関係を持続させて行くためには、それなりの努力をしなければならないということらしい。

途中で分からない単語も幾つか出てきたが、先日シズク達が言っていたのは、要するにそういうことなのだと思う。
パクが見せてくれた雑誌によれば、世の女性達は好みの異性を射止めるため日夜随分な努力をしているらしい。
また意中の異性と結ばれても、その相手を飽きさせないため、更なる努力を惜しまないらしい。

クロロを飽きさせない、というのがどのような状態を示すのかよく分からないが、私もそれなりの努力をするべきなのかも知れない。
クロロとの関係をより長く継続させるためというよりも、パクが言っていたように、それでクロロが喜んでくれるのなら私も嬉しいのだから。


「どうしたの?さっきから難しい顔して」


いつものクラピカと違うような気がした。
食事の最中も何やら考え込むような仕草が多かったし、今だって。

何か興味深い事柄を見付けると意識が飛んでしまう癖は俺と似ていて、でも、今日のそれは、理論的な考察に耽っているというより、何かに逡巡し思い悩んでいるような。

何かあったのだろうか。

そういえば一昨日うちの女連中と会ったらしいからな。
また余計なことを吹き込まれた、か。

そうだ。
パクが何やら意味ありげに、社長、今週末は良いことがあるかもしれませんよ、何て言っていたような。

それと関係あるのか?

いつものクラピカなら、夕食を外で済ませて俺の家に来て、このソファに座って、俺が隣に腰を下ろしたら、その先の展開を予想して、ほんの少し緊張して肩を強ばらせるのに。
今日は。
俺に任せるまま大人しく肩を抱かせるなんて。

「心配事?」

俺の疑問符に金茶色の瞳が何かを言わんと揺れて。

「パクの家の文献で学んだだけなので技術的に未熟だとは思う」

やっぱりか。
やっぱりあいつらにいらないことを。

「でも、回数を重ねればおそらくは」

ってなんの技術のこと?

「胸を使えないのは仕方がない。その点を指摘されれば、申し訳ないとしか言いようがないのだが…その分他のことで補うから」

固く覚悟を決めたような表情のクラピカの手が俺に伸びて。

伸びて。

その後は。


その後のことは、ちょっとここでは言えないんだよ、残念ながら。
ただ一つ言うとしたら。
いつも余計な一言の多いパク達の年末賞与を、今年は増やしてやるべきかもしれない。

それだけを明言しておく。

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