sweets,Inc.
□flower
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―今週末、よかったら家に来ないか?
運命の出逢いから2ヶ月が過ぎたある日、唐突にそう告げられた俺は心の中で固く拳を握りしめた。
だって、だってそうだろう?
週末毎に二人で新しい本屋を発掘したり、古本屋街をのんびり散策したり、美術館巡りをしたり、それはそれでもちろん楽しかったし心は弾んだ。
でも俺は至って健全な26歳男子。正直それだけでは満たされない部分もあったりする訳で、それを責めるなんてこと誰が出来ようか。
けれども、クラピカは今まで付き合って来たどの相手とも違っていて。
すれ違う人波から守る名目でさりげなく肩を抱いてみても、会話のふとした合間に艶っぽい目で見つめてみても(今までこれで落ちかなかった女なんていないんだよ!)まるで響いてないみたいで。
それどころか、あの大きなまあるい瞳にきょとんと見上げられると、俺の方こそが全ての動きを封じられてしまって何の手出しも出来なくて。
でも…でも、一人暮らしの若い女の子が異性を部屋に招くって…それってやっぱり二人の関係を進展させたい気持ちの現れと解釈してもあながち間違いではないだろう。
そうか。
そうだったんだ。
何にも分かっていないような顔をして、でもクラピカだって俺との関係に物足りなさを感じていたんだ。
そう思うと俺はこの上なく晴れやかな気持ちになると同時に、申し訳なささえ感じた。
あんなに奥手そうなクラピカに自分から男を誘うような言葉を言わせるなんて。
ああ、週末が心から待ち遠しいよ。
今度会うときは、年上の恋人としてちゃんとリード出来る俺でいよう。
そして迎えた日曜日。
来てくれてありがとう、と俺を出迎えた君の笑顔があんまり綺麗で、俺はしばし呆然と立ち尽くした。
まるで君と初めて出逢ったときみたいに。
「狭い部屋で驚いたか?」
いつもの愛くるしい仕草で、とんでもなく見当違いな事を言われて、俺は、まさか、と微笑んで見せた。
君はすごく頭が良いのに、本当に疎くて、でもきっと今日は二人にとって忘れられない日になるよ、そんな思いを込めて。
初めて足を踏み入れたクラピカの部屋は、とても質素でこじんまりとしていて、でもすごく清潔感があってきちんとしていて、あ、あの出窓の所に立て掛けてある本、俺がこの間買ったのと同じだ。
そんな些細なことが物凄く嬉しい。
大きな本棚が目を引く簡素なリビングを横切りながら、早速なんだけれどこちらへ…と誘導された部屋に入って、俺は思わず立ちくらみを起こしそうになった。