sweets,Inc.

□chocolate party
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疲れた。


どうしてかな、ちょっと前までは結構楽しめてた。

ウチの顧客が道楽で開くパーティーに呼ばれるのなんていつもの事だ。
くだらない自慢話を誠意ある素振りで聞き流して、得意の笑顔を振り撒いて、新しい人脈を獲得して。
飽きてきたら俺の事を遠巻きに、でも物欲しそうに見てる女の子の中から適当に選んで、パクの目を盗んで抜け出して。

俺が淋しげな目でじっと見つめて(ほんの数秒でいいんだよ)、それからその子にだけ分かるように(ここポイント)にこりとすれば大抵の女の子はふらふらついてきて、それが当たり前なんだと思ってた。

俺の人生、障害らしい障害なんてなんにもなくて大抵のことは思い通り。


あの子を見つけるまでは。


最近の俺は週末が何よりも待ち遠しくて、今日だって本当はクラピカと一緒にいられるはずで、どこに行こう、あの子が随分気に入ってた古本屋街をもう一度歩いてもいいな、今度は裏道を重点的に、それともちょっと足をのばして郊外の美術館に行ってみようか。
週の頭からそんな事ばかり考えていた。
それなのに。


「聞いた話なのだが、お前が土日を休むせいで、随分な皺寄せが下の人間に行っているそうだな。本来ならば土曜日にもするべき仕事があるのに、お前が休みを取るせいで他の人間がそれをこなしていると。社長のお前がそんなことでどうするのだ。私のせいで、お前に従っている人間に不利益が生じるなんて耐えられない。私に会うためにそんなことをしているのなら、もうお前とは会わない。」


薔薇の花みたいに可愛い唇がそんな恐ろしいことを言うから。
本当はシャルあたりに押し付けてやろうと思ってた今日のパーティーにだって、渋々参加するしかなかった。
あの子の性格から言って、それがただの脅しじゃないって分かったから。


貴重な土曜日にくだらないパーティーなんかするなっつーの。
クラピカにこんなちっちゃいことをいちいち告げ口すんな。
マチか、パクか。覚えとけよ。

心の中であらん限りの悪態をつきながら、いつもの三割増しの笑顔でばんばん名刺交換してやった。
それで、どうだ、何か文句あるかって顔でパクを振り返ったら口の動きだけで、後はご自由に、と言われて、俺は大切な週末の一日を台無しにした、馬鹿らしい仕事からやっと解放された。



大通りに出て腕時計を確認すると9時半をちょっと回ったところ。

今までの相手なら、まだまだこれからっていう時間だけど。
クラピカとは、こんな時間から会ったことなんて一度もない。

あのとんでもない誤解が解けたあとも、俺達は夕食を済ませたら各々の家へ帰るという、何とも健全な付き合いを続けていた。

マチに、アンタいつか刺されるよ、なんて言われるくらいいい加減なことを繰り返して来た俺だけど、クラピカに対してそんなことが出来るはずもなく。


会いたいな。
一目見るだけでいい。
だってものすごく疲れたんだ。
だから。
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