一輪挿

□ポーラスター
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「碧官吏」

「これは欧陽官吏」

七月七日−、双七の夜。
吏部の新人官吏・碧珀明は、芸事の上達を願う宮廷行事・乞巧奠の準備を手伝っていると、背後から工部侍郎である欧陽玉に声をかけられて礼をとる。
欧陽家は碧家の門家筋にあたるが、朝廷においてはあちらが目上だ。

「そう畏まらずともよいですよ」

そう言いながらも、玉は内心礼節を弁えている眼下の少年を好ましく思う。

「この度は諸準備を手伝っていただきありがとうございます。とても助かりましたよ」

「いえ、お役に立てたのなら何よりです」

乞巧奠は礼部と工部が合同で執り行う。
が、乞巧奠は芸事の上達を願う行事。今年は朝廷に碧家の者が入朝したということで、奉納する工芸・美術品についての選定を一部珀明に手伝って貰うことになったのである。
珀明の審美眼の確かさは碧一門では知らぬ者はいなかったため玉も素直に承諾した。

「吏部は忙しいから掛け持ちは大変だったでしょう」

「いえ、私はまだ若輩者で、吏部ではそうお役に立てることも少ないですし…」

それに、と、珀明が流したた視線の先を見れば、彼の上司が正装で回廊を歩いていくところだった。
光彩を放つ銀色の髪と日に灼けていない白い肌、そして淡い色の衣装が宵闇によく生えて、思わずその姿が消えるまでの刹那、二人して目で追ってしまう。

「吏部侍郎と王の花を掛け持ちされているあの方に比べれば、私の忙しさなど露程のものではありません」

「そういえば…、貴方は李侍郎に憧れて官吏を目指したんでしたね」

「はい」

玉は珀明の言葉と少し照れたような表情から、彼が李侍郎に寄せる想いは格別なのだと瞬時に悟る。
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