一輪挿
□星に願いを
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「…な、なんですか、これ!?」
「ああ、お帰り絳攸」
書翰を無事…かどうかは甚だ疑問だが、なんとか他部署に届けて戻ってきた絳攸は、変わり果てた吏部を見て仰天した。
…吏部が竹林になっている。
「なぜ竹が吏部に!?」
「…我等が上司かつ、君にとっては養い親でもある紅黎深侍郎様々の仕業だよ」
熱く叫ぶ絳攸に対し、出迎えた楊修は、眉間に皺を寄せながら冷ややかに告げた。
その様子から絳攸は、今日も自分が留守の間に黎深様と楊修さまの言い争いがあったのだなと悟り、冷や汗を流す。二人の熾烈を極める口喧嘩は、工部に次ぐ六部の名物日常行事だ。
「でもなんで笹なんか…」
「明日は双七ですからね。姪御さんに持って行くんだとウキウキしながらさっさと帰って行きましたよ。仕事ほったらかしてね」
「…ああ…」
いつもながら不可解な養い親の本日の奇怪行動に絳攸は首を傾げていると、楊修が面倒臭そうに説明してくれた。
それで、絳攸は楊修が怒っている理由と黎深の行動に釈然とする。
同時に、昔のことを思い出す。
そういえば、自分が拾われて何年間かは、これと同じように黎深が何処からか竹を調達してきて、黎深と百合と自分の三人で願い事を託した七色の糸を吊して星見をしたものだった。
最近は自分も大きくなったし百合さんも邸に居ることが少なくなったため、双七の行事自体を失念してしまっていたがー…。
あたたかな思い出。
しかし胸に切なさが込み上げ俯いた。
−理由は分かっている。
『姪御さんに…』
黎深が兄とその娘に別格の愛情を注ぐのはいつものことなのに、当たり前のことなのに、時々無性に寂しくなる。
厚かましい感情だとは解っているけれども…。
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