十人十色

□はじめてのおつかい
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(昨夜はろくに眠れなかった…)


黄奇人こと黄鳳珠は寝台からゆるゆると起き上がると、家人が用意してきた手水で顔を洗い眠気を覚ます。鏡を見れば睡眠不足に影響されることのないいつもの美貌が映しだされた。

(くそ黎深め!)

憎々しげに寝台を振り返ると、寝不足の原因が穏やかな寝息をたててそこに寝ていた。国試の同期であり悪友の紅黎深である。


事の次第は昨夜。
なりゆきで琅燕青が茶州からの賊を一網打尽にするためにこの邸を提供することになったことに端を発する。
彼には人員に窮した戸部を手伝って貰った借りもあり許しを出したが、予想外だったのはその後主上一行までここにやってきたことだった。更に詳しく言えばその中に李絳攸がいたこと、突き詰めれば紅黎深まで便乗して来たことか−。


『絳攸から君の邸に行くと書翰を貰ってね』


大方、手紙の中に書かれていたと思われる「紅秀麗」に釣られてやってきたのだろう。黎深が姪っ子馬鹿なのは長年の付き合いでよく知っている。

こうしてこの馬鹿は、こっそり人の邸に忍びこみ、人の話を盗み聞きしたあげく、『あまり苛めないでくれないか』(いつも苛めているのは誰だ)などと棚上げ極まりない言葉を投げ、あげくの果てに、一行が今晩邸に泊まると知ると『私も泊まるぞ』と無理矢理居座り、『秀麗を不貞の輩から守らねばならん』、と宣言され、札遊びをしながら鳳珠まで見張りに一晩中付き合わせられる羽目になったのである。

…鳳珠はむくむくと怒りが再燃していくのを感じた。.
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