十人十色
□素直じゃない子の治療法
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「それでは一晩ご厄介になります。おやすみなさいませ」
茶州から入り込んで来た賊の捕物後、もう夜も遅いからと一堂そのまま黄家に一泊させて貰うことになったその夜。李絳攸は引率者として家主である黄奇人に就寝の挨拶を済ませた後、自分が休ませて貰う室へと戻り一息をついた、次の瞬間−。
「痛っ…!!」
右足首に激痛が走り、思わずその場にしゃがみ込む。
「く…そ。俺としたことが」
絳攸は伝わってくる激しい痛みに冷や汗を流しながら恨めしげに呟いた。
実はこの黄家に静蘭達と侵入した時のこと−。絳攸は塀から飛び降りた際に着地に失敗し、右足首を痛めていたのだった。
『構うな』
足手まといにならぬよう、変な気を遣われないよう心配してくれた楸瑛の腕も振りほどき、鉄壁の理性をもって此処まで平常心を保っていたのだが−。
一人になって緊張が切れたせいか、一気に痛みが押し寄せて来たようだった。
「どうしたものかな…」
扉に背を預けて天井を仰ぐ。皆に黙ってこっそりとこの邸の家人に治療を頼むことを考えるが、家人から家主である黄戸部尚書に事情が伝わることは必至だ。ただでさえ今夜のことで迷惑をかけているというのにこれ以上厄介をかけるわけにはいかない。ひいてはあの方への負担ともなる。
そして何よりあの方にこんなていたらくを知られたくはなかった…。
「…寝て、痛みを紛らわすか」
明らかに間違った判断をしようとしたその時だった。
「おーい、李侍郎さん、起きてる?」
寄り掛かっている扉のすぐ外から、覚えのある野性味溢れる声が聞こえた。
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