切花
□宣戦布告Mislead
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最近、苛々する。
「…と、失礼」
「なんだその態度は!無礼ではないか!」
回廊で目上の官吏にぶつかるも礼もそこそこに立ち去ろうとした藍楸瑛を、激昂した官吏は腕を掴み呼びとめようとする。が、しかし。
「なっ…」
確かに腕を掴むもびくともしない。
「申し訳ありません。先を急ぎますので…」
楸瑛は、驚愕する官吏を尻目にそう冷ややかに言い捨てると、さらりと腕を振り払い優雅な所作でその場を後にした。
(我ながら、らしくないな)
自嘲気味に先程の自分の態度を思い返し、反省する。
余裕がないのはわかっている。そして、その原因も−。
楸瑛は懐にしまった書簡に手をあてて握り締める。
書簡の表に捺されているのは、藍家の家紋『双龍蓮泉』−。楸瑛の兄であり、藍家当主、藍雪那からのものである。
内容は、昨年から度々寄せられているもの。
『辞官、帰還、藍州』
「−−−っ」
楸瑛は唇を噛み締める。
確かに楸瑛は貴陽に来て仕官した目的は既に果たした。
この二年、残された末の公子は結局、藍家直系の自分に対して何の行動も起こさなかった。それどころか政事に関心すら示さない。
見切りを付けるには十分だった。
それでも、楸瑛が朝廷に留まり続けた理由は…。
(絳攸…)
他でもない、心を寄せる彼が此処にいるからだ。
しかし、彼こそが自分が余裕を失くすことになってしまっているもう一つの原因でもあったりする。
少し前から、絳攸の口から頻繁に紡がれるようになった人物の名前を憶い出し、楸瑛は眉間に皺を寄せる。
(『楊修』…)
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