一輪挿
□小噺集@
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傾いた黄金色の光が、彩着いた山々をいっそう鮮やかに染めていく、黄昏。
鄭悠舜はその壮観とも言える秋の紅(くれない)燃える風景を、眩しそうに目を細めながら、愛おしむ。
「−何をぼーっと見ている」
声がした背後を振り向けば、彼と同期の紅黎深がいつの間にか立っていた。相変わらず傲岸不遜な態度の年下の友人に、悠舜はやんわりと微笑む。
「紅葉した山々に見惚れていたのですよ。御覧なさい、綺麗でしょう?」
ほら、と身体を傾けて山々を指し示すが、黎深はふん、と興味なさ気に一瞥するだけだ。そして悠舜の元にするりと歩み寄ると、手にしていた扇を悠舜の頤に宛てて自分の方へと振り向かせる。
「同じ紅に見惚れるなら私に見惚れろ」
強い視線で射ぬかれて、悠舜は思わず目を見開き、息を呑む。しかし。
「−嫌ですよ」
揺らぎない態度でやんわりと断り、淡く微笑んだ。
(−あの時、私を選ばなかった癖に、今更狡いですよ)
決して口には出さないけれど。
どんなに自らの血が、性(さが)が、心が紅を求め、染まりたいと叫ぼうとも、容易く靡いてなどやらない。
紅に染まった風景に、貴方を重ねていた、なんて。
決して伝えてやりはしないのだ。
その時が、来る迄−−。
『紅(くれなひ)燃ゆる』
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『黒蝶』受けて、黎深&悠舜話です。悠舜は根本的に黎深じゃなきゃ駄目だと思いたい。