十人十色

□素直じゃない子の治療法
5ページ/6ページ

その時、絳攸は燕青をとても近くに感じた。
彼のことは何も知らないけれど、彼も自分と同じ、「独り」になった経験と、人に救われた経験がある者なのだと漠然と悟る。

しかし二人には差があった。救ってくれた者以外にも心を許すか許さないか、という点だ。
燕青は前者、絳攸は後者であると言いたいのだろう。
絳攸も、官吏になって信じるにたる人間は他にも沢山いることには気付いている。しかし、根本的なところは何も変わっていないことに気付かされ、己の小ささを恥じる。

「幸いなことに李侍郎さんの周りはいい奴多いと思うし。たまには甘えてみたら?」

少し顔を赤くする絳攸には気付かない振りをして、燕青は立ち上がる。

「ちなみに俺なんかもオススメだぜ?」

そう言って親指で自らを指すとにかっと微笑んだ。そのなんの屈託もない笑顔を見て、絳攸は思わずつられて笑顔を零す。


「ああ…。ありがとう燕青」


不思議なことにごく自然と感謝の言葉が口から出て来た。

「どういたしまして」

燕青は絳攸の頭をくしゃっと撫でる。いつもなら何をする!と振り払うところだが、その時ばかりはそれが心地良く感じた。

「じゃあ今夜は安静にして寝るように。その薬はよく効くから、多分朝までには腫れもひくと思うぜ」

そう言って、室に入って来た時と同じようにごく自然に室から出て行く。

絳攸はその後ろ姿を見送る。そして扉が閉められると、再び後方へと寝転んだ。


(不思議な男だ−)


黎深や楸瑛とはまた違う、不思議な魅力を持つ男だと絳攸は思った。人の気持ちをとても素直にさせるというか。
ふと、かつての指導官を思いだすが、燕青とは明け透けさが違う。面と向かってあんなことを言われたのは初めてだった。


「人を、信用していない…か」


絳攸は暫く思案を巡らすと、明日、秀麗に女人の国試受験を検討していることを打ち明けると共に、楸瑛ぐらいには足首の怪我のことを打ち明けて恨み言を言ってもいいかもしれないと思うのだった。



※ ※ ※



(な、なんで燕青が絳攸の寝室から出て来るんだ!?)

ちなみに全くの余談であるが、扉の外では夜這いに来た楸瑛が、現場を目撃して誤解し、葛藤の内に夜を明かしたという…。



-終-
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ