十人十色

□素直じゃない子の治療法
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沓が脱がされ絳攸の白い肌が露わになると同時に、紫色に変色した部位も明らかになる。患部を見て燕青は眉間に皺を寄せた。

「うわ…こりゃ酷いな。よく我慢してたな李侍郎さん」

冷やすのが先だなと、燕青は一度室の外に出ると、氷水が入った桶を持って帰って来た。腫れあがった絳攸の右足首をそっと浸す。

「冷たいか?」

「…いや、気持ちいい」

「そりゃ重傷だな」

燕青が苦笑した後、室が一瞬静かになった。
一拍してその沈黙を破ったのはやはり燕青だった。

「…李侍郎さんさー。俺が黄尚書んとこに事情説明に、ってお願いした時、治療なりなんなり出来た筈だろ?折角そのために抜ける話振ったのに、なんで治療しなかったわけ?」

「…!あの時から気付いていたのか」

絳攸は驚き微かに瞠目する。

「まーね。落ち方が落ち方うだったし。なあ、なんでだ?」

「………別に、深い意味はない。たいした怪我じゃないと思っただけだ」

絳攸は仰向けに寝転んだまま返答する。嘘ではない。
しかし、燕青から意外な一言が返って来た。



「李侍郎さんって根本的に人を信じてないよな」



「…!?」


思わぬ言葉に絳攸は上体を起こす。すると自然と燕青と瞳が合った。

「李侍郎さんって几帳面で完璧主義だろ?」

言葉は明るさを帯びているが、その実は何処か咎めるような響きがある。

「また実力もあってその自覚もあるから、何でも自分自身でやれる出来ると思ってるんじゃねえ?あらかたのことはその通りなんだろうけど」

でも、と燕青が続ける。

「自分で解決出来ないことまで自分でやろうとしない方がいいぜ?道に迷った時も誰かに聞けば早いのに自分でなんとかしようとしてますます迷ってるし、姫さんのことだってなんか狙いがあってのことなんだろうけど独断みたいだしさー」

「お、俺は迷ってなんか…」

と、絳攸は口を開きかけたが、すぐに閉ざす。多分これこそが燕青の言っていることなのだ。

「まあ朝廷じゃあ迂闊に人を信用出来ないってのはわかるけどな」

俯き黙る絳攸を視角の端に見留めながら、燕青が言葉を重ねる。そして十分に冷えたと思われる足首を水からあげると、持って来ていた薬を患部に塗りつけた。

「でも、官吏をやっていくなら信用出来るか出来ないか見極めて信じてみるのも大切だぜ?」

そして器用に包帯を華奢な足首に綺麗に巻いていく。

きゅっと包帯の端を結ぶと、大きな瞳で絳攸を真っ直ぐに見詰めた。



「人は一人じゃ生きていけないんだからな」


「!」


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