十人十色

□素直じゃない子の治療法
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「…燕青?」


なんだこんな時間に、と訝しむも、何かあったのかもしれないと右足首を庇いながら立ち上がり、扉を開ける。勿論そこには苦痛に歪む表情などは一切見せずに−。が、しかし。


「………誰だ、お前は」


別の意味で無表情が剥がれた。無理もない、目の前には見知らぬ男が立っていたのだから。

思わず絳攸は警戒を深めて後ずさる。しかし、その動作が無意識に痛めている右足首に体重をかけた。

「…い゛っ!」

絳攸は痛みから体勢を崩して後ろへ倒れこみそうになるが−…。

「おっと!」

寸前で、その男が絳攸の手首と腰をとると、力強く手前へと引き寄せ転倒を防いだ。反動で自然と男の腕の中に絳攸の華奢な身体がすっぽりと納まる。

「…!?」

一瞬のことに何が何やらわからなくなる絳攸の上から、再び聞き覚えのある声が落ちた。


「大丈夫?李侍郎さん」


「…!燕青…、か!?」


外見は似ても似つかないが、その声から自分の抜群の記憶力が目の前の男は浪燕青だと指し示す。どうやら髭を剃ったしい。見上げてみると、すっきりとしたその顔の左頬には確かに見覚えのある十字傷があった。

「…こんなに若かったのか」

「…おいおい、李侍郎さんも俺をいくつだと思ってたわけ?」

姫さんといい、やんなっちゃうよなーとふてくされながらごく自然な仕草で扉を後ろ手に閉められる。

「…何の用だ?」

その様子に絳攸は解けかけていた警戒心を再び強めた。しかし、当の燕青からは思いも寄らぬ返答が返って来た。


「何のって。李侍郎さんの足首の怪我の治療しようと思って。ほら、薬と包帯」
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