一輪挿

□星に願いを
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すると突如、俯いた胸元にずいと何かを押し付けられた。

「…短冊?」

押し付けられたものは水色の短冊だった。
絳攸は何事かと目線を上げると、楊修から有無を言わさず続けて筆も渡される。

「あ、あの、楊修さま、これをどうしろと…?」

「願い事を書くんですよ」

「…願い事…?」

きょとんとオウム返しに聞き返す。
双七で願い事を託すのは七色の糸ではなかったか?
そんな絳攸の頭の中の疑問を読み取ったのか、楊修はしれっと話を補足する。

「近年、民の間では七色の短冊に書くのが主流になって来ているそうですよ。書かないと叶える側も内容がわからないだろうとかどうとか」

「…はあ」

一理あるような無いような。
絳攸は気のない返事をしつつも室に繁っている竹に目をやる。よく見たら既にいくつかの短冊が飾られていた。

「皆さんも書かれたんですか?」

「この有様では仕事にならないからね。皆自棄になって書いてたよ。明日の夜外に飾った後、火にくべて焼くそうだ」

…それは既に他の行事じゃあ…。
内心突っ込みを入れつつも飾られた短冊の内容を覗き見ると、『紅侍郎が仕事してくれますように』、『異動希望』、『侍郎が絶対に尚書になりませんように!』、など願い事といった生半可なものではなく、どれも切羽詰まった嘆願書のようで、絳攸は笹を焼き払いたい先輩官吏達の気持ちを察し深く溜息をついた。そして自分の席についてしばし逡巡すると、短冊に筆を走らせる。
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