十人十色
□ラブ★コレクション
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「ふふふふふ…」
今夜も碧家貴陽邸の一角で不気味な笑い声がひそやかに響き渡る。
「またこの部屋に飾る物が増えたぞ」
そう言いながら、珀明は懐からそっと布にくるんでいたあるものを取り出して、部屋の四方に設置されている硝子戸付の棚の中に設置する。
「札(ふだ)も一緒に、と」
布から取り出されたそれは、昼間、侍郎室から片す目的で持ち出した絳攸が折った筆であった。
「絳攸様がご愛用されていた筆が手に入るなんて、今日は運が良かったなあ。文箱関係は後は硯だけじゃないか?」
そう言って見渡した棚の中には、『絳攸様の書きかけのご料紙』や『絳攸様がすった墨』など、珀明が吏部に配属されて以来集めまくった物が整然と並べられている。
そう、絳攸様愛を騙って憚らない彼は、とうとう邸内に絳攸にまつわる物モロモロを集めた「絳攸様の部屋」を作ってしまったのである。
勿論、家人や肉親には秘密だ。
先日、『トアルモノ』を依頼して描いて貰った万里以外には−。
「しかしこれはいつ見ても素晴らしい!」
部屋の奥に大切に据えたソレを見て、珀明は満足気に頷く。
「一度まみえただけなのに、ここまで描けるとは…。万里の才能は末恐ろしいな」
「私の息子ですもの、当然でしょう?」
「!!?」
突然、背後から聞こえてきた声に、思わず珀明は跳び上がった。
いきなり声を掛けられたからではない。恐れるはその声の持ち主…。
「か、かかか歌梨姉さん!!」
「オーッホホホホ、背中ががら空きでしてよ珀明!!」
珀明の姉であり、碧家次期当主と目されている「碧幽谷」こと碧歌梨である。
「なっ、なななんでここに!!」
一番見つからないよう注意しておいたのに!
珀明は慌てふためき、動揺を露わにする。
しかし理由は歌梨の陰からおずおずと現れた小さな人物によってすぐに明らかになった。
「ごめんなさい、珀明叔父上…。母上に問い詰められて、僕…」
「ば、万里……」
「爪が甘くてよ、珀明!本当に秘密にしたかったのならば、万里にあげた釉薬の使用も人前で使わないようきつく言っておくべきだったわね!」
(!し、しまったー!!)
そう、珀明から口止めと依頼の報酬として受け取った釉薬を、万里はあろうことか歌梨の前で使ってしまったのである。歌梨は買い与えた覚えはない。父親である欧陽純もない。家人も同じく。子供の万里にそのような高価な物を自分で買える訳でもなく。では…、といった流れであえなくばれてしまったのである。
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