十人十色

□ラブ★コレクション
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「ああ、悪いな」

「いいえっ、これくらいお安い御用です」

珀明は緊張した面持ちで予備の筆を絳攸に渡す。

(あっ…)

渡す時に、絳攸の白い指に触れて、珀明は思わず声をもらしそうになるが、自称鉄壁の理性でなんとか留める。
絳攸はそんな珀明に気付きもせずに、新たな筆を受け取るとさっさと仕事の続きに取り掛かった。

(嗚呼…。今日も素敵です、絳攸様…)

そんな絳攸の仕事ぶりに暫く見惚れていた珀明だったが、ここに来たもう一つの目的を思い出し、辺りを見渡す。
探していた物は難無く見付かった。机案の横に無造作に置かれた、先程まで絳攸が使っていたと思われる筆の成れの果て。

「…絳攸様。そちらの折れた筆、片しておきましょうか」

「ん?ああ、頼む」

絳攸は書翰から目を上げることなく返事をする。

「では…」

だから気が付かなかった。

その折れた筆を持ち去る珀明が、実に不気味な笑みを湛えていたことに…。



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