切花
□宣戦布告Mislead
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「ただ今戻りました楊修さま…って、楸瑛!?なんでおまえがここにいる!」
「…絳攸…」
他部署に書翰を届けて戻って来た絳攸は、吏部の扉を開けるなり思わぬ同期かつ腐れ縁の姿を目にとめて、驚き叫ぶ。
「君を誘いに来たようだから、帰って来るまで中で待っていたらと私が言ったんだよ」
「楊修さまが…?」
楊修に状況を簡単に説明されて、絳攸は楸瑛と楊修の顔を交互に伺い見る。
何とも違和感のある組み合わせだった。それに…。
「…楊修さまと何を話してたんだ?」
「え。ええっと…」
場に流れる空気の異変を感じとったのか、用件を聞くより先に楸瑛に小さく尋ねる。正直に真実を説明する訳にもいかず、楸瑛が言い淀んでいると、意外にも楊修が助け舟を出してきた。
「特にこれといったことはない世間話だよ。刑部のこととかね」
「そう…なんですか?」
絳攸はなんだか釈然としない表情を浮かべたが、楊修はこの話は終わりとばかりに畳みかけていく。
「さあ、今日はここまでだ、もうお帰り。明日は公休日だし、久々二人で酒楼でも寄って帰ったらいい」
そのつもりで君も来たんだろう?と楸瑛に話を振って微笑む。それは先程の勘に障るものとは違う、純粋なる微笑みだった。
自分も変わり身の早い方だが、負けず劣らず見事な仮面演技だと、楸瑛も楊修に愛想笑いし頷き返しながら、心の中で皮肉を漏らす。
「楊修さまは?」
「私ももう少ししたら帰りますよ。さあ」
視線で促されて、絳攸は渋々ながら楸瑛の袖の裾を掴んで吏部の外へと出る。
「失礼致します」
正式な跪拝の礼をとって退室する絳攸に合わし、楸瑛も仕方なく礼を取ろうとする。
その時、再び視線が楊修と合った。
音にはならない言葉を紡いでいく唇の動きを、楸瑛は見逃さなかった。
『せいぜい頑張ってくれ』
(−−−!!)
再び怒りが沸点を越える。
同時に、絳攸の手によって吏部の扉が閉められ、楊修の姿は視界から消えていった。
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