切花

□宣戦布告Mislead
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楸瑛は拳を強く握り締め、俯いた。

でも。


(−でも、退くわけにはいかない)


楸瑛は毅い意志を込めて視線を上げると、再び楊修と向き合う。

敵わなくても、負けは明らかでも、それが、何だ。

「貴方の要望を聞き入れる訳にはいきません」

開き直りにも近い心情で楊修に宣言する。
いかにみっともなくても情けなくても、これだけは譲る訳にはいかない。


(−どんな理由があろうとこの想いは否定出来ない)


理屈じゃない。
そんな想いを、また味わうことになるとは思いもしなかったけれど。
でも、もう前のように自ら諦めて割り切って逃げたりしたくはなかった。
それだけ、絳攸の存在は自分にとって大きくなっていたのだ。その手を離して歩いてゆくなど考えられもしない程に…。

その事実を、「離れろ」と言われた今、楸瑛は漸く思い知った。


楊修はそんな奮起再燃した楸瑛を相も変わらず平然と見詰めていたが、暫くすると再度口を開き、問う。

「それで?離れないでいるとして、一体君に何が出来るんだ?」

「−貴方こそ、私に何をさせたいんです?」

楸瑛は楊修の問いに今度は動じることなく答える。
今の自分を完膚無きまでに否定して、では一体自分にどうあれというのか。自然な疑問を口にしたつもりだった。だが。

「…なるほど」

その言葉に初めて楊修は興味ありげに呟き、今までとは異なる反応を示した。
そして何が可笑しいのか口の端を吊り上げて、笑う。
その笑いがやけに勘に障って、楸瑛が口を開いて抗議しようとした瞬間−。

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