切花

□宣戦布告Mislead
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優雅に結い上げられた髪は黒壇のような漆黒。趣味の良い眼鏡で覆われてはいるが、自分を射ぬくような切れ長の鋭い眼光。背は楸瑛よりもやや高く、気配を全く感じさせなかったその全身からは実力に裏付けられているだろう自信が滲み出ている。

楸瑛は、彼のその佇まいと言葉から、吏部官、しかも上官であることを悟る。
そして十中八九−。

「絳攸は指導官の私が言い付けた所用でしばし出ています」

(やはり…)

件の絳攸の指導官、『楊修』であると確信する。

楸瑛は一瞬洩れそうになった殺気を全力で抑え、代わりに、藍家特有の厭味なくらいに品の良い極上の笑みを顔に佩いて、上官への正式の礼をとって応えた。

「そうですか。ご親切に有難うございます。それでは失礼致します」

そして簡潔にそれだけ述べると身体を翻す。
ここで退くのは何か悔しかったが仕事ならば仕方ない。それに絳攸がいなければ此処に用などないのだ。
そう自分に言い聞かせて立ち去ろうとした。が。

「絳攸を迎えに来たのなら、ここで待っていたらどうですか」

思いもかけず引き留められて、楸瑛はゆっくりと振り返る。

瞬間、楊修と眸が合って微笑まれる。
余裕溢れる、笑顔。

「ねえ、刑部の藍楸瑛くん?」

挑発めいた視線に捕らえられて、楸瑛はその誘いを断ることは許されなかった。

何より、自分の矜持が、赦さなかった。



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