Novel

□苦楽
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もう何も言わないで…




高杉が捕まった…。
「どうして逃げなかったんですか…」
声がかれる…喉が痛い…。
「おまえに…会いにきたんだょ。」
目もおかしくなったのか、周りが滲んで見えた…。
「殺されちゃうんですょ…」
思っていた以上に、自分が冷静で…反対に困る…。
それなのに、高杉はいつものように笑っていて……。
「…んなの、上等だろ…?オマエに殺されるんならよぉ…」
大好きなあなたの言葉一つ一つが…心に響き、締め付ける…。
「俺は……あなたを……殺したくない……!!」
本心と共に出た涙は、止まることを知らず、ポタポタと檻の前に、染みを作る。
染みは残ることなく、渇くと消えていく…。
まるで、高杉のようだ……。
俺の心に恋愛感情という染みを残して、死で消していこうとする……。
「…あなたはズルイです……。」
そう言えば、独特の含み笑いをしながら、俺に手をのばすが………届かない…。
どこまでも邪魔をする……真選組という檻……。
近づけば……触れる手は冷えきっていて、俺の心をあらわしているようだった……。
明日になれば………この手に触れられなくなる……。

………そしたら…誰が…


……俺の涙を拭いてくれるんですか……



…だれが………



……俺を支えてくれるんですか…………


俺にできた染みは、涙のように渇いても消えずに、残ってしまう……。


檻は壊れることなく、俺を逃がさない……。



「あなたの最後を見なきゃいけないなんて……俺は不幸者です……」

「最後にオマエが見れるなんて…俺は幸せ者だな……」


時として……死は残酷で…………暖かだ………


「オマエと…もう少し生きたかった……」


大好きな人の最初で最後の弱さに…檻からしか触れられない自分の弱さに………


泣き崩れるしかなかった……
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