「ただいまー!!」
バンと勢いよくドアを開け、ズカズカと入ってきたのは、暗部装束を身にまとった青年、蒼天。
背は平均的だが、バランスの整ったスタイルに、漆黒の短髪。面の下に隠された顔は申し分ない。
軽く手を挙げ、木の葉の5代目火影綱手姫に簡単すぎる挨拶をする。
「おぉ、蒼天か。よく帰ったな」
「ばぁちゃん忙しそうだね」
「年末だからな」
そう言う通り、綱手の周りには取り囲むように、資料が山積みにされている。
「大変そう…。
あ、コレさっきの任務の報告書」
「ご苦労だったな。そこに置いてくれ」
『そこ』と指された場所にも、任務報告書類が大量に置かれている。
蒼天は山が崩れないようにそっと置いた。
「じゃ、ばぁちゃん頑張って。バイバイ」
「ああ。――あ、蒼天!!」
「ん?」
「この後は何もないか?」
「うん」
首を傾げながらも、肯定の意を示す。
「じゃ、ちょっと頼まれてくれないか?」
「…なに…?」
先ほどよりも少し低い声だが、綱手は少しも臆さずに、黒い笑顔で“頼み”を伝えた。
***
「何でオレがこんなこと…」
蒼天が案内されたのは、綱手の執務室の横にある小さな部屋だった。此処にも沢山の資料が積まれている。
「いいじゃないか。この忙しいのに、休みをやるんだから」
「そうだけど…」
「オマエ位しか頼めないんだよ。だいたいの暗部・上忍を把握しているだろう?適当に割り振ってくれ」
蒼天が任されたのは、任務の振り分け。蒼天は長く暗部をやり、忍をみる能力に長けている。時に生前の3代目火影や綱手に助言もしている程。
綱手はその能力を買い、休みと引き換えに手伝ってもらうことにしたのだ。
「じゃ、頼んだ」
「はーい」
「あ、ここの鍵閉めて、変化を解いてもいいからな」
にっこり笑って応えると、綱手は部屋から出て行った。
「じゃー、お言葉に甘えてそうすっか。疲れたしな」
蒼天は独り言をこぼしながら、コキコキと首を鳴らし、ドアまで歩く。しっかり鍵を閉めると、印を組みボンという音と共に煙に包まれた。
次に現れたのは金髪が眩しい少年。水色の瞳が晴れた空を思わせる。
その少年はうずまきナルト。
普段は元気いっぱいのドタバタ忍者であるが、その実、裏では暗部として、バリバリ働いている。
本来の姿形はうずまきナルトであるが、素の表情や性格、忍術や力等は蒼天で出している。
性格に多少は表のナルトとかぶるものがあるが、無駄に元気で芝居がかったものではない。
パンと両手で頬を叩き、気合いをいれて机に向かう。
「っしゃ!!頑張るか」
イスに腰を下ろし、忍カードをパラリとめくり確認していく。
それを何回か繰り返している時、ふとナルトの手が止まった。
「カカシ…っ」
ポツリと零れた声は無意識。
自分の声が耳に届いた瞬間、ナルトの頬は真っ赤に染まった。
「あ…オレ、今勝手に…ぅぅ、恥ずかしい…」
ナルトの手を止めた人物は『はたけカカシ』。
木の葉のエリート忍者で、写輪眼のカカシとの異名をもつ。ナルトの下忍時の担当上忍でもある。
そして
――ナルトの好きな人であり、
蒼天の恋人。
「…うわ〜、この写真若い…。やっぱりマスクしてるし…。でも格好いいな〜」
カカシの若い頃の姿に興奮し、しばらく写真とにらめっこしているナルト。
クフフフと笑う姿はどこから見ても怪しい。
「…はっ!!早くしなきゃ…」
漸く我に返り、書類に取りかかる。
――と、思った瞬間、勢いよく顔をあげた。
そして…
「い〜いこと思いついた」
――にんまりと笑う。
その後ナルトは驚異的なペースと集中力で処理していき、翌朝の下忍の任務の集合までに殆どを終わらせた。
「んー!!はあ…疲れた。
あとはばあちゃんのサインを入れてもらうだけだな」
ナルトは体を伸ばした後、部屋から出て行った。