心地好い風が頬を撫でる。
視界はピンク一色。
今日は楽しいお花見。
木の葉の里でも屈指の花見スポットの公園では、今日も花見客で賑わっていた。呑めや食えやのその様は、もはや花を愛でるような気持ちはカケラも感じられない。
そんな中、カカシ・アスマ・紅率いる下忍達は特別に同じ日に休暇をもらい、人でひしめき合うこの公園に足を運び、花見を楽しんでいた。
持参した沢山の弁当は、チョウジを筆頭に食べ、成長期の子供たちが集まっているからか、ものの数十分で既に底が見えはじめていた。
いつもの如くサクラとイノは、眉間にシワを寄せたサスケを間に挟み睨み合い、
シカマルは花見さえも面倒なのか、一人腕を枕に眠っている。
一通り腹が膨れたキバは赤丸と散歩に出かけ、
ヒナタはもじもじとナルトの様子を伺い、時折何か話しかけていた。
残念なことにシノは風邪を引き、欠席。後から面倒な口調で文句を言うのは必死だ。
大人たちは桜の木を挟んだ反対側で、シートを広げ、酒を飲んでは談笑している。
ナルトは先程まで話に花を咲かせていたが、話題が尽きたためボーっとしていた。
ふと上を見上げると、視界いっぱいに映るピンク色。
「キレーってば」
ほぉっと溜息が出てしまい、目を奪われる。
そして、あまりの美しさに周りの世界と隔離されていくような錯覚を覚えた。
その時目の端にキラリと光るものを感じた。
不思議に思いそちらを見やると、太陽に照らされキラキラ輝く銀色が目に入った。
担当上忍はたけカカシ。
彼は自分が嫌いなのだろうとナルトは思っていた。
目が合えば、あくまでも自然体で外される視線。
手を伸ばせば、ふらりとかわされ笑顔でごまかされる。
何より時折見せる苦しげな表情が酷く印象的で、ああこの人も腹に棲む化け物のせいで大切な人を亡くしたのだろうな…と、安易に想像が出来る。
そんな一つ一つの動作に違和感を感じたのは、本当に最近だった。
ナルトにとって他人から嫌われることはどうでも良かった。
それらは、幼い頃から向けられていたため、当たり前のことだった。
アカデミーに入り、それなりに友人ができた時、信頼してくれる一人がいればいいと思えた。
ただ一つ誤算だったのは、ナルト自身がカカシを信頼してしまったことだった。負の感情を秘め、あたかも自然体で接するカカシに騙され、その裏の感情に気付かず懐いてしまった。
信頼すれば、日常から自然と目はカカシへ行った。
さらに信頼は強まり、それはやがて尊敬へとなっていく。
彼のような忍者になりたい。
彼のように強くありたい。
そして、気がつけばそれは恋愛感情にまで発展していた。
ナルトにとってその感情は初体験で戸惑いの方が大きかったが、確かにそれは恋心だった。
そうして、一層カカシを追う目が強まった時、漸く気付いた。きっと好きにならなければ気付かなかった、心の奥底に秘めた感情。
カカシはナルトを好きではないということ…
――むしろ嫌っているだろうということに――…。
視線を頭上の桜に戻し、誰にも気付かれないように、小さく溜め息を一つ零した。
せっかくの花見。この憂鬱な気持ちをどうにかしたい。
下忍たちは各々好きなことをしているし自分も構わないだろう、とナルトは立ち上がり、ふらりと歩き出した。
そこにいた皆は、トイレに行くのだろうと思い、その行動を特に気にとめることはなかった。
――ただ一人を除いては…