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□ただ何気ない日常の幸せ
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 その日は爽やかな秋晴れで、木の葉の里を暑すぎない太陽が照らし、涼しげな風が吹き渡っていた。

 そのような日にも関わらず、人々は思わしくない表情をしていた。それは偏に今日という日がそうさせている。

――10月10日。

 木の葉の里を襲った悲劇の日。九尾の狐が里を壊滅に追い込み、多くの死者を出した。当時、4代目火影は事態を収集するため、その命と引き換えに、幼子の腹へ九尾を封印するという苦肉の決断を下した。

 毎年この日が近づくにつれ、死者へ祈りを捧げるために、慰霊碑へ赴く者が数多くいる。

 今年も例年通り、里には普段の活気は見られず、静かに死者へ弔いの祈りを捧げていた。


 そんな中、ある部屋で寄り添う二人がいた。
 はたけカカシとうずまきナルト。
 彼らは曰わく恋人という関係にあり、それは既に周知の事実でもある。
 男同士、年齢、カカシとナルトの差。それらを建て前に多くの反対にも合ったのだが、それはまた別の話にしよう。

 今二人はカカシの家でゆっくりと過ごしている。


「ね、何かしたい事ある?」


 ナルトの耳元で優しく話すのはカカシ。ナルトはカカシの肩に頭を預けたまま、苦笑混じりに答えた。


「ねーってばよ」

「何か食べたい物は?」


 尚もカカシは尋ねる。


「ねーって。今腹減ってねーし」


 しかし、ナルトの返答は変わらなかった。


「行きたい所とか…」

「ねーってば」

「…オレの覚え違いでなければ、今日はナルトの誕生日じゃなかった?」

「ん、確かにその通りだってば。こんな日に生まれたんだから覚え違いなんてねーんじゃね?」

「だよね。何かないの?何でも聞くよ?」


 普段ならばナルトの上司として、甘えさせることは避けてきたが、今日だけは特別、ナルトのしたいことをしようと、カカシは前々から二人分の休暇を申し出ていたのだが…。当のナルトがあまり乗り気ではないようで、カカシは途方に暮れている。
 暫くはその空気を楽しんでいたが、流石に可哀想に思えてきたナルトはカカシを見つめて、小さく言った。


「特別な事はしなくていーんだってば。ただ、先生と一緒に……二人で居たい」

「ナルト…」

「最近特に忙しくて二人で会えなかったじゃん?だから、オレってば先生といちゃいちゃしてーってば」

「いちゃいちゃって…」


 ふふっとカカシは苦笑しつつ、ナルトの頬に手を伸ばした。


「そうだね。最近オレもナルトに触れてなかったから充電しなきゃ」

「じゃ〜オレも先生充電しなきゃってば!!ぎゅ〜!!」


と、効果音を出しながらナルトはカカシに存分に甘えた。





 忍の世界。

 それは死と隣り合わせが常である。

 二人はそれを熟知していた。


 昨日、

 今日、

 先程まで

 共に笑い、同苦し、闘った者たちの死ぬ様を目の当たりにしてきた二人だから。


 だからこそ

 今日を大切にしたかった。

 明日も明後日も。

 死に向かう日は刻々と迫っていくから。

 毎日を大切にする事を誓った。





 二人は寄り添い、語り合い、ゆったりと流れる時を楽しむ。







 そうして、今年もまた年が一つ増えた。













ただ

貴方が
生きていることに
感謝しよう


この
大きすぎる
広すぎる
世界で

この時に貴方と
出会えた
深き縁に
感謝しよう








2008.10.15




















 後でケーキを食べよう。

 先生がこっそり買ってきてるのは知ってるんだってば。

 コーヒーも入れて。

 オレにはミルクとお砂糖も。




 今二人で紡ぐこの時間こそが最高のプレゼントなんだ。








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