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□銀色憧憬-ギンイロショウケイ-
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 静寂な森。聞こえるのは夜の闇に蠢く生き物の音のみ。

 そして闇夜に輝く妖しい光を放つ朱の月。


 ――腹の中が疼いてるってばよ。

 ――はっ…化け物が…。


「…クス…つまりはオレか」


「何が?」


 他人がいたことに驚きつつ、素早くクナイを構えて振り向く。

 しかしそこに居たのは良く見知った人。
 背が高くスラッと伸びた手足、顔の殆どを隠した銀色の髪が眩しい男。


「何だ、カカシ先生か…。びっくりしたってば」

「いつも言ってるでしょ、気配を感じなさいって」


 だって、とナルトは唇を尖らせ不満そうな顔をする。カカシはクスクスと微笑った。


「ところでナルトはこんな所でこんな時間に何してんの?」


 カカシの言う通りナルトの居る場所は人里から離れた森の中。その中でも一際大きい木の上に腰掛けていた。そして、子供が外出するような時間は疾うに過ぎている。


「ん…。月が朱いから散歩」

「ふぅん?」

「先生は?」

「任務帰りだよ」

「そっか。お疲れ様」


 カカシはナルトの横に腰掛け、月を見上げた。ナルトもそれにならう。


 沈黙が落ちる。



 暫くしてナルトが口を開いた。


「…ね、カカシ先生はさ、例えば欲しいモノがあって、けどそれは諦めなきゃいけない時はどうする?」


 カカシは訝し気な顔をナルトに向けた。


「諦めないといけないの?」

「…うん」


 ナルトは月を見上げたまま頷く。その顔は哀愁を帯びている。


「う〜ん。……諦めないよ…」

「え?だから諦めなきゃ…いけないんだってば」


 ナルトはカカシに困惑した面持ちを向けた。


「ん、だから、ほんとに欲しいものは諦めない。きっと諦めきれない。
 オレだったら何をしてでも手に入れる。絶対…」

「……そっかぁ」



 ――欲しいモノはただ一つ。
 けれど…



「でも、先生。手に入れることは出来ないんだってば…。どんなに頑張っても…」



 ――オレの存在は罪だから…



「ナルト…」



 ――何かを望むなんて許されない。



「オレが望むのは銀色の月。手を伸ばしても届かないってばよ。今日は朱いから…尚更」


 朱い月に向かって手を伸ばし、にししっと邪気のない笑顔をカカシに見せる。



 ――まして里の宝である貴方を…



「ははっ。月…か。全く、オマエには驚かされる」



 ――望むことは許されない。



「さて、と。帰ろっか」


 送るよ、とカカシは手を差し出す。ナルトは一瞬躊躇したが、笑みを返して手を取った。


「うん。ありがとってば」


 月に照らされ繋がる二つの影。


「明日、寝坊して遅刻するなよ」

「遅刻するのは先生だってば!!」


 影は森の闇に溶けていった。













 朱の月。

 禍禍しい色。

 オレのナカが暴れ出す。

 きっと、いつか現れるだろう化け物。

 その時は貴方がオレを殺してくれるのでしょう?

 オレの最期を貴方と過ごせるなんて――。

 最期に貴方を眼に映し、最期に貴方の声を聴けたら何と幸せだろう――。

 貴方だけを想って死ぬことができたら…。


 ああ、それは何と夢のような甘美な話。









 ――オレが望むのは銀色の光。


 ――決して、オレのモノにはならない銀。




 今夜は朱が邪魔して貴方に会えない。


 けれど、今夜は貴方に会えた。







20080211



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