連載
□彼の恋を願うまで。
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ユラリユラリ
彼女が座ってたロッキングチェアーは、未だに微かな揺れを保っていた
手元の紅茶は程よく冷めているのに、彼女は書庫から帰って来ていない。
やはり着いて行くべきだった…
フォンウィンコット家の家系図を読ませてもらえば、毒の正継承者の末路が辿れると思ったのだ
空いている手で前髪を払いのけた。
少し伸びたかもしれない…こんなことだから、ルッテンベルクの獅子なんて異名が付くのだ
そんなことを零したら
彼女は笑って
「髪を短くしたら、雌獅子だと思われるじゃない」
と言った。
俺は今、彼女…スザナ・ジュリアの邸宅に来ている
十貴族に属しているというのに、彼女はこじんまりとした屋敷を選び、従者も必要最低限しか住み込ませていなかった
…だから俺がこうして立ち寄り、お茶をご馳走して貰えるんだが。
《腕は…落としていないな》
彼女は、上品な香りのアップルティーを好んだ
そして俺は彼女の入れる紅茶が大好きだった。
いや…本当は彼女が好きなのだ
ずっと
ジュリアはフォングランツ・アーダルベルトと婚約している
それを知らなかった俺は、運命の如く彼女に出会い
恋に落ちた。
母上にアーダルベルトの婚約者として紹介される前から、俺達は互いに心を通わせていたんだ
…違うな…そう思っているのは、多分俺だけだろう
今度はいつまで、こうして会いに来れるだろうか
フォンウィンコット卿オーディルからの、2年という契約期間は今年の春を境に切れたはずなのに
いつの間にか桜は散り、新緑が芽生え、太陽の照る夏を迎えた。もうすぐ7月も終わる
これから始まる人間の国との戦い…グウェンダルの命によって俺は、隊を率いて先陣を切る
その前に、どうにかして
彼女の体内に姿をくらましている ウィンコットの毒 を取り除いてあげたいのだ
もし我が眞魔国が窮地に陥れば、フォンシュピッツヴェーグ卿シュトッフェルは確実にウィンコットの毒を利用する
彼女を守る為に、血液中の毒を無効果させる薬を作らなければ
もしくは、無効にする方法を。
俺が出来るのはそれくらい
アーダルベルトは良い男だ。
彼女には、幸せになってほしい
見つめていた赤茶の水面には、ひとひらの花びらが…
掬い上げても、思い出せない
何んの花だろうか?
知らない。
ガタガタガタ
ズッドーン
「キャアアアアー!!」