連載

□彼の恋を願うまで。
4ページ/10ページ





ユラリユラリ


彼女が座ってたロッキングチェアーは、未だに微かな揺れを保っていた
手元の紅茶は程よく冷めているのに、彼女は書庫から帰って来ていない。

やはり着いて行くべきだった…
フォンウィンコット家の家系図を読ませてもらえば、毒の正継承者の末路が辿れると思ったのだ


空いている手で前髪を払いのけた。
少し伸びたかもしれない…こんなことだから、ルッテンベルクの獅子なんて異名が付くのだ
そんなことを零したら
彼女は笑って


「髪を短くしたら、雌獅子だと思われるじゃない」


と言った。


俺は今、彼女…スザナ・ジュリアの邸宅に来ている
十貴族に属しているというのに、彼女はこじんまりとした屋敷を選び、従者も必要最低限しか住み込ませていなかった
…だから俺がこうして立ち寄り、お茶をご馳走して貰えるんだが。


《腕は…落としていないな》


彼女は、上品な香りのアップルティーを好んだ
そして俺は彼女の入れる紅茶が大好きだった。

いや…本当は彼女が好きなのだ


ずっと


ジュリアはフォングランツ・アーダルベルトと婚約している
それを知らなかった俺は、運命の如く彼女に出会い
恋に落ちた。


母上にアーダルベルトの婚約者として紹介される前から、俺達は互いに心を通わせていたんだ
…違うな…そう思っているのは、多分俺だけだろう


今度はいつまで、こうして会いに来れるだろうか
フォンウィンコット卿オーディルからの、2年という契約期間は今年の春を境に切れたはずなのに
いつの間にか桜は散り、新緑が芽生え、太陽の照る夏を迎えた。もうすぐ7月も終わる


これから始まる人間の国との戦い…グウェンダルの命によって俺は、隊を率いて先陣を切る

その前に、どうにかして
彼女の体内に姿をくらましている ウィンコットの毒 を取り除いてあげたいのだ


もし我が眞魔国が窮地に陥れば、フォンシュピッツヴェーグ卿シュトッフェルは確実にウィンコットの毒を利用する


彼女を守る為に、血液中の毒を無効果させる薬を作らなければ
もしくは、無効にする方法を。


俺が出来るのはそれくらい

アーダルベルトは良い男だ。

彼女には、幸せになってほしい


見つめていた赤茶の水面には、ひとひらの花びらが…
掬い上げても、思い出せない
何んの花だろうか?
知らない。




ガタガタガタ

ズッドーン



「キャアアアアー!!」







 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ