短編

□ナイチンゲールは鬼軍曹
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『ギーゼラ先生ー!』


窓辺の机で眠りこけていたギーゼラは慌てて起きた。
今度やって来たのは、眞魔国現魔王のユーリ陛下


「まぁ陛下!私の医務室を尋ねていただけるなんて光栄ですわ」


医務室を私的に使うのはどうだろうか…
彼女は、可愛い気のカケラも無い部屋へと彼を招き入れた。
化粧臭さよりも、バイ●ハザード的な生臭さが漂っている
もちろんコレは、ギーゼラが城内の医療全般に関わっているからであって…
いくら鬼軍曹でも家政婦に見られる程、暴力の証拠は残しておかない
だからこの話も、崖からの飛下りで終わる事は無い


『いや〜グレタと遊んでたら、いつの間にかこんなのが出来ちゃっててさ〜』


参った参った と丸椅子に座ったユーリは、腕を捲り浅黒い痣をギーゼラに見せた


「グレタと?
…陛下、一体どうしたらこんなにに酷くなるんですの…?」


彼女は父に似て、業務は平然とこなす人間だ。
だからすっかり白衣の天使モード…白衣はよく血に染まる
ユーリの腕をさすれば、痣が二の腕を一回りしているようだった


『ただ腕組んで歩いてただけ!女の子って成長早いんだねー…
ギュウッ
て頭擦り付けて来たと思ったら、激痛が走ったんだよ〜♪』


怪我の割に、ユーリはにこやかに話した
親バカとは一種の麻酔効果になるらしい…
ギーゼラが脳内メモに取ったのを、彼は気付かない


「昨今は、アニシナの教育の元で力強い女性が増えてますからね。
私としても新兵の訓練を強化しているのですが、冥土に燃える者が少なくて…」


『特攻隊?
ダメだよっ戦争は!』


「もちろんですとも。
しかし、国の為に命を投げ出す覚悟がなければならないのです
さぁ陛下…薬草漬け冷却巾を巻いて起きますね」


つまり湿布。
苦い顔をしたユーリは、ふいに視線を部屋の奥へとやった


『ねぇ、ギーゼラ?
ベッドが全部埋まってるみたいだけど、病人でも出たの?』


カーテンで仕切られていて、中の様子は見えないが、
確かに3つあるベッドにはギーゼラの元にやって来た患者が寝ていた


「あぁ…彼らはたいした事ないので、心配なさらずに。」


ギーゼラは指折り数えて、患者の説明を始める


「一人は、《ここを通れば地球に行けるはずだー》と叫ぶ男に噴水へ顔を突っ込まれて気絶。
もう一人は、《俺の恋人の仕事は減らしてね》と言われ、過労でバタンキュー。
最後の一人は、汁の出し過ぎで脱水症状です」


ギーゼラは笑顔を崩さずに話し終えた
カーテンの向こうからは、啜り泣く声が聞こえる

裏飯や…裏メシ…表、お焦げや…

果たして誰のモノだろうか


『それはそれは気の毒に…
ってゆーか、その人犯罪者じゃーん!!
ここに遺体…じゃなかった被害者が連れて来られてるって事は…まだ犯人は、城内に居るの?!』


ガッターン
と椅子を倒してユーリが立ち上がる
しかし、同時に医務室の入口から誰かが顔を覗かせた


《ユーリ、こんな所に居たんですね!探しましたよ》


『コンラッドー!!』


彼は顔を輝かせながら、訪問者の胸に飛び込んで行った
ギーゼラが軽く舌打ちをする。


《医務室に用があるなんて…
怪我でもしたの?俺に見せて》


言われた通りに、腕を見せるユーリ。
しげしげと細いそれを見たコンラッドは、巻かれた湿布を勢いよく取り去った


『えっ?なにすんの、コンラッド?せっかくギーゼラが…』


《俺がすぐに治してあげます》


わぁっ
悲鳴が起こる、コンラッドはユーリを抱き上げたのだ
ルンルンルンというステップで、ベッドのカーテンを開けた
そこには萎れた患者が寝てる訳だが…
彼は躊躇すること無く、乗っていたオレンジ頭を蹴落とす


《あぁそうだギーゼラ悪いんだが、弱った腰に効くような軟膏でもそこに置いといてくれ》


不適に笑ったルッテンベルクの獅子は、シャー とカーテンを閉めた


「トローチも出して置きます。あまり陛下を鳴かせ過ぎないで下さいね」


鬼軍曹は珍しくため息をついた後、ヤレヤレと部屋を出ていくのだった。






End



 

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