『あくまでいちゃラブなロイエド』

□『大きくて窮屈なベッド』
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「君は頭が良い、とても。力も、それを使いこなす体技も身につけている。負けず嫌いだからなおの事それ以上を求めて、手に入れて来た。……しかし、負けず嫌いだから、時折感情に揺さぶられて判断を誤る、そうだろう?今だって私に負けたくないから無理な体勢のまま勝負して…。冷静に考えれば先に体の向きを変える事が出来たはずだろう?」
「………」

マスタングが諭すようにエドワードの頭を撫でた。
エドワードは天才と言われて然るべき才能と、それにおぼれる事なく人一倍の努力を重ねる両方を兼ね備えている。
大人達の中で臆せず自らの道を突進む強さも持つ。それは何かと折り合いをつけ妥協する事を知らない子どもだからこそ可能だとも言えた。
マスタングは、その事をどう諭すべきか悩む時があった。
今それを考えて彼等兄弟が立ち止まってしまっては元も子もない。しかし、エドワードの感情が先走り取り返しのつかない事を引き起こしてからではもっと困る。

「鋼の……?」
「……」

エドワードが突っ伏したままぴくりともしないので、マスタングはくりくりとつむじをつつく。ぎゅ、と機械鎧の右手がシーツを掴み、マスタングの言おうとしている事を悟ったようだった。
まだ不貞腐れた顔は悔しさとマスタングからの気持ちに赤らんでいるのが自分でもわかるから、エドワードはふい、と横を向くだけで顔を上げられないでいる。

「………あんただから」
「うん?」

小さく棘の生えた声を出したエドワードに気付き、マスタングがつむじをつつくのを止めた。

「あんただから、…負けたく、ねぇし……」
「………」

髪に触れていたマスタングの指が、ぴく、と揺れた。エドワードが左手を伸ばしてそのマスタングの指を掴んで引き寄せる。
そしてしっかりと手を重ねて握ると、まだ熱を持つ頬にあてがう。

「ただ守られてんのは、嫌だ……」
「………」

柔らかく温かな肌の温もりを互いに感じ、エドワードもマスタングも口を閉じた。

マスタングは負かしたつもりがすっかり負かされた気分になって頬杖の上で顔を傾けた。
勝負を挑んでくる勝ち気な顔も、拗ねてぽろ、と漏らす男の本音にも、自分が惚れて勝てない恋人の姿。
元から勝ち目などない。
勝てるのは永遠に年齢だけだ。

「………」

ふう、とため息をついてマスタングはエドワードに捕まったままの手を握り返し髪に唇を寄せた。

「…敵わないな、君には」
「―――ッ」

エドワードがびくっと跳ねる。

「〜〜〜〜〜ッんの!」

それがずりぃってんだよ!

マスタングのしっとりしたまとわりつく声音に耳まで血管が膨張する。

勝てないのは知ってる。
こいつの声も姿にも、多分、髪の毛一本にだって勝てないんだ。
悔しいくらい、負けてばっかりだ。


マスタングはより熱くなったエドワードの頬に、嬉しそうに笑みをこぼした。

「もうそろそろ、顔を上げてくれないか?」
「ッ嫌だ!」
「何故かな?」
「うっせ!!」

マスタングがわざと聞き返してくるから、エドワードがバッタンバッタンとうつぶせたまま暴れた。
くっくっとマスタングが笑って奥歯を噛むエドワードの顎に手を差し込みぐい、と自分の方へと引く。

「うわっっ」
「おや?熱でもあるのかね?」
「怒りで頭に血ぃ上ってんだよ!」

にやにやするマスタングにエドワードが目尻をつり上げて噛み付く。
楽しそうなマスタングを歯ぎしりしながら睨み、エドワードはずんずんと肘でにじり寄る。

「お?」

エドワードの行動に目を見開いたマスタングの頭をエドワードが両手でガシッと掴んだ。
頬杖が外れた勢いで面食らったところに、エドワードの金色の髪が揺れる。

「鋼……」
「黙れよ……ッ」
「エ、ド……?」

驚くマスタングの鼓膜を揺らすエドワードの低い声音。心臓すら貫く。

「………ッ」

息を飲むマスタングの唇に迷いなくエドワードの舌が滑り込んだ。

「ん……」

マスタングがもらした微かな声がエドワードの心音を一瞬にして跳ねさせる。

唇を濡らす程で離れた口付けで、お互いの瞳を覗き合えば揺らぐ感情。

「………」
「………」

エドワードが唇の端を少しだけ曲げて冷静さを取り繕うのに対し、マスタングは苦笑いのように口角を上げた。


敵わない。


口にしない同じ想い。

それでもきっと、自分の方が弱いのだと、同じに感じている。
認めないのが子どもで降参するのが大人だとしても、相手を想う気持ちに勝ち負けなんてない。

悔しいけど好き。

好きだから。
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