『あくまでいちゃラブなロイエド』

□『スイッチ』
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マスタングは説明しながら自分がどんどんどつぼにハマって行くような気がして語尾を濁す。

「というか、それのどこが……」
「びっくりすんだよ。なんで急に抱き付いたりとかすんの?」
「は……?」

もう一歩近付いてエドワードがマスタングをじっと見上げる。
どう見てもマスタングの行動が理解出来ないという顔に、マスタングは目を見開く。

「鋼の…」
「あ?」
「それは私が君に抱き付く理由がわからないのか?それとも」
「だ、だからなんで急にっていうか、変な時にってコト!歯磨きしてる時に普通抱き付かねぇだろ!?」

マスタングが自分に抱き付く理由なんて、一応わかってるつもりだ。

「………付き合ってんだし」
「ん?」
「何でもねぇよ!」

エドワードが少しもじもじとする感じにマスタングが椅子を動かして距離を徐々に詰める。

エドワードからしたら、何と言うか自分的には思いもよらない時に抱き締められるのがとにかく心臓に悪い。

「今から抱き締めるぞ、と言ってから抱き付けというのか?」

マスタングが呆れた顔でエドワードを見下ろす。

「そういうわけじゃねぇけど…いきなり現れて…何か声かけろよ」
「かけているだろう」
「抱き付いてから耳元でやらしい声かけんのは、違う!」

焦ったようにくわっと口を開けたエドワードがサッと頬を赤らめ、マスタングは思わず吹き出しそうになるのをぐぐ、と堪えた。

「う〜ん……何と言うか…ムードとか、雰囲気とか…君に求めるのはまだ早いか」

恋人とはそれくらいのサプライズなスキンシップも甘い時間を過ごすためには必要なんだが、とかなんとか言いながらマスタングが困ったように軽く頭をかいて身体を起こす。

「…………」

急に離れて視線をそらしたマスタングに、エドワードがしゃがみ込んだまま無言で床へと視線を落とした。マスタングの言いたい事はわかる。まぁ少し女性慣れしたキザったらしさが寒気を誘うにしても、だ。一応…それでも恋人だと、思っているのだから。

『恋人』という単語でさえ顔が熱くなってくるくらい恥ずかしいのに。

「……」

だからエドワードはどうしてもマスタングの言う恋人のスキンシップとやらが苦手だ。だって、マスタングの求めるのはきっと今まで彼が付き合ってきた女性たちのように時には素直に甘えて自分から抱き付いたり誘ってたり、驚かされてもそれを可愛く返してくれる、そう言ったものだろう。

実際そんな風に女性からされた経験もないし、その前に自分は男だから、同じものを求められても困る。

エドワードはマスタングがどう話したらこちらが理解してくれるのかを考えているような表情をちら、と見てため息をついた。
それくらい、自分とマスタングの間には感覚というか、経験というか、年の差があるのだ。

すっかり沈んだ雰囲気を醸して座り込んでいるエドワードに、マスタングは机に頬杖をついて様子をうかがい見ながらふ、と目元を緩めた。

「鋼の」

自分はいつの間にか、女性の可愛らしさと同等のものを男の子である彼に求めてしまっていたのかもしれない。
でもまずそれが違ったのか。

「ん…」

声を掛けてもエドワードは小さく返しただけでこちらを見ない。

元からそう言った趣味の男の子を相手にしているならまだしも、エドワードも自分もそれに関してははっきり違うと言える。それを考えれば自分の行動に思いもよらない反応が返ってきたとしても仕方ない。
ただその反応の違いはマスタングにとっては楽しみのひとつなわけで、嫌な事はない。

歯磨き中のエドワードを後ろから抱きすくめると飛び上がって足元がおぼつかなくなる。わたわたと大慌てで逃げようとするのを洗面台との間に挟んで耳元で囁けば真っ赤になって歯ブラシを振り上げて来る。
口をすすぐ間ずっと撫でくり回しタオルを投げ付けられてもそれすら可愛くて構い続けてしまう。

一部始終思い出してマスタングはクスクスと笑う。
そうそう、自分はそんなエドワードがたまらく可愛いのだ。

「エドワード」

マスタングは膝の上に組んだ手を乗せ、身体を倒してエドワードの顔を覗き込んだ。

「……うん…」

エドワードは再び近寄ったマスタングに気付かずにふい、と視線を上げた。

「わ…っっ」

額にマスタングの唇が柔らかく当てられエドワードが驚いてドサ、と尻もちをついた。

「な……っ」

落ちていた気分から急に引っ張り出され抗議の言葉がまだ出てこないでいるエドワードに、マスタングは一人嬉しそうに頷いてエドワードの腕を引っ張った。

「なに……」
「おいで」

警戒を見せるエドワードが仕方なさそうに膝立ちでマスタングの前まで進んだ。
マスタングが組んでいた足をといてその間にエドワードを引き寄せ、ちょっと身体をそらしているエドワードの髪を撫でた。

「……君の言うところの私の変なスイッチは、嫌なのかね…?」
「………」

細めた黒目がちな瞳に見つめられ、エドワードはたちまち心音が早くなっていく。

「あ………いや別、に…」

緩く弧を描いて微笑む口元にエドワードはとくとくと心音を感じながら小さく喉を鳴らす。

触れたい……。

その思いが急に沸き起こる事にエドワードが戸惑って視線を反らす。

「どうかしたのか」

じっと動かなくなったエドワードにマスタングは不思議そうに首を傾げて顔を寄せる。びく、とエドワードがわずかに跳ね、思わずマスタングの上着を引っ掴んだ。
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