『ひっ越し後』

□『お伽話』
2ページ/4ページ


アルフォンスの衣装は短パンに茶色の尻尾がついていて、同じく茶色のふわふわした耳がカチューシャに取り付けてある。

エドワードはそんなアルフォンスの姿を不覚にも可愛いだろうとか思った自分にいたたまれなくなったのであるが、ここは鏡がないため自分の格好がどんな事になっていりのかまだよくわかっていないのはお互い様だった。

「俺、んなすげー事になってんのか……?」
「あははは……」

アルフォンスの少々憐れみを含んだ苦笑いにエドワードがサァッと青ざめていく。

「…………赤ずきんちゃん?」
「!!!???」

アルフォンスの指摘に近い疑問符にエドワードが卒倒しそうになった。

いや、だって何だかワンピースみたいな物と赤いコートを渡されただけだったからまさかそんなコンセプトがあるなんて考えてなかった。

一も二も無く抗議するべく仮眠室から出ようとドアに手を掛け、勢い余ってエドワードがつんのめった。

「って〜……」
「兄さん大丈夫?」
「あぁ……」

したたか鼻をぶつけて涙目になり、扉に張り付いているエドワードの耳に指令室からの会話が飛び込んできた。

「大佐は太もも好きなんだろ?ミニスカートのが良かったんじゃね?エドの」
「つーか、あの人の場合、腿のラインだからさぁ、ミニのタイトとかチャイナのスリットから覗く腿とか大好物そうじゃん。大将の場合ミニがミニじゃなくな……」

ハボックが言い終わる前にエドワードがものすごい勢いで仮眠室の扉を叩き開けた。

「だぁれがミニスカートが膝丈中途半端なババァスカートになるミニマムサイズかぁ――――!!!」
「!!!???」

クリーム色のひらひらワンピースにフード付きの真っ赤なコートのエドワードがごついブーツはそのままにギュインと音を立てて少尉ふたりに突進した。

「に、兄さん!?」
「アル……!?」

兄を止めようと慌てて飛び出した猫耳尻尾付きのアルフォンスにハボックがあ、と声を上げて固まり、エドワードの猛ダッシュを避け切れずに真正面から受けてしまった。

「ううわわ!!??」

どーん、とジャンプしたエドワードのブーツの靴裏が見えたとたん、ハボックは床に叩きつけられた。

「てめーら何やらすんじゃコラ―――!!!」
「エ、エド落ち着け…!」
「ふーざーけーんー…なぁ―――!!!!」

ハボックをまた足の下に敷いたエドワードにブレダが慌てて駆け寄り、アルフォンスも遅れてたどり着く。

「何考えて………ッ」

エドワードは、アルフォンスの姿とエドワードの蹴りの衝撃にもう降参するに出来ないほどくったりしているハボックの胸ぐらを力任せに引っ掴んだとたん、視線の端で見覚えのある人物が笑いを堪えて指令室の扉口にもたれているのに気付いて怒りに真っ赤になっていた表情がまた真っ青に戻る。

「ぅ、いっっ…た…大…」
「随分とお転婆な赤ずきんだな………っぶ…っ」

マスタングは言い終わったとたんに崩れるように笑い出してしゃがみ込んだ。

「――――――ッ」

エドワードがハボックのシャツを放し、ハボックはごん、と音を立てて床に頭を打ち付けた。
声もなくわなわなと震えているエドワードに回りの男連中は――マスタングを除く――次の怒りの矛先が自分に向くんじゃないかと縮み上がった。
それを何の苦もなくホークアイがぶち壊しエドワードのフードをひょいと掴んでハボックの上から退ける。

「さ、赤ずきんちゃんはおさげなのよ?」
「お、…さげ……?」
「ええ」
「…ぶっ」
「―――――!!」

マスタングがもうこれ以上ないほど笑っていたのにまたふきだし、エドワードはホークアイの喜々とした顔に魂が抜かれる思いだった。

何で、何で何で顔出しに来ただけなのにこんな目に遭うのか、自分は何かとんでもなくひどいミスを犯したのか?この美貌の副官に対して。
でなくてはこんなに恐ろしい仕打ちがあるわけがない。

エドワードは必死で最近の行動を思い返してみるが彼女の怒りを買うような事はしていない。

エドワードが目を白黒させている間にも着々とホークアイがエドワードの髪を編み上げていく。

「はい、出来上がり」

最後に赤いリボンをつけてホークアイは満足そうに微笑む。

「アルフォンスくんにはこれね」

されるがまま、両足踏ん張って固まったままのエドワードを置いてホークアイが赤いリボンの付いたこぶし大の軽い鈴をアルフォンスに差し出す。

「わぁ、鈴!」
「やっぱり猫には鈴でしょう?」

楽しげなふたりの会話などエドワードの耳には入らない。ひたすら肩を揺らして笑い続けている背後のマスタングの姿が目に見えるようでもうどうしたらいいのか頭がパニックな陥っていた。
少なくともおさげをされる前のワンピースにフード付きコート姿は見られている。その格好でハボックを床にのしている様も。

「鋼の…?」
「!!!!!」

思考回路がショート寸前のところにいきなり至近距離でのマスタングの呼び掛けにビックーッとエドワードが飛び上がった。

「こちらを向いてごらん。中尉の力作だと言うじゃないか」
「い、嫌だ……ッ」
「何故かね」
「嫌だっつったら嫌だっての!!」

マスタングの声が耳元でする事にエドワードが逃げるに逃げられないでふるふると身体を震わせる。

「…………可愛い姿を見せておくれ、エドワード」
「ばっ………」

バカ言うな。
名前で呼ぶな!
みんな居るのに。

と甘ったるい声を出すマスタングに怒りが爆発しそうになってエドワードはあれ、と部屋の気配の無さに気付いた。
思わずぐるんと振り返って少し身体を折っていたマスタングと視線がかち合う。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ