『ひっ越し後』

□『お伽話』
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* * * * * * *



「ああ〜?大佐は女装だろう?絶対!」

ハボックが腰に手を当て煙草をくわえた口角をにや、と吊り上げた。

「そうかぁ?いやいや、大佐は猫耳と尻尾じゃねぇ?」

ブレダが嫌味な笑みを浮かべてハボックを見上げる。

「どっちもありは、どうなんですか?」

フリューが眉をハチの字にして間に入った。

「おお!それいーじゃん!?」

ハボックもブレダも満足そうに頷いた。


「…………」

開いた扉の前で心底蔑むような顔のエドワードと、苦笑いをするアルフォンス。

「お、大将!来た来た!!」
「何気持ちわりぃ事言ってんだよ」
「兄さぁん、もう」

これみよがしの溜め息をつきつつ部屋に入って来たエドワードの腕を、ハボックとブレダがガシッと掴んだ。

「あ…?」

ぽかんと口を開け眉を器用に左右ねじ曲げてエドワードが二人を見上げた。

嫌な予感がする。

「じゃ、エド本人に選んでもらうか!」
「だな!」
「はああああ!?」

引きずられて行く方向にはホークアイがにっこりと優しげな、しかし有無を言わせない笑顔で立っている。
両手に何やらうさん臭い布切れを掛けているのを見てエドワードが喉の奥でひ、と短い悲鳴を上げた。

いや、いやいや何かおかしい!!!!
大佐の話だろ!?

「さぁ、エドワードくん。どちらがいいかしら?」
「ち、中尉!?」

恐い。
造りが綺麗な顔が浮かべる笑顔は時には一番の凶器だ。

「ま、ま、待て―――!!!」
「あわ……」

あらんかぎりの声で叫ぶエドワードに、アルフォンスとフリューが並んで手を出せずにあわあわと行く末を見守る。
身体を取り戻したアルフォンスが、実はこのまま放って置かれるはずはない。




「……で、なんなんだっつの!!」

思い切りハボックとブレダを蹴って殴って逃げたエドワードが荒い息を肩でやり過ごしながら低い声で二人を見下ろす。

「お〜い〜…」
「真剣に殴るなよ、お前」

子供ひとりに大人ふたり、それも鍛えた軍人が踏み付けられながら力なく許しを乞う。

「誰があんな阿呆な格好させられそうになって真剣に怒らねぇって!?」

踏み付けたふたりの上でしゃがみ込み、エドワードは目を三角にして睨む。

ハボックもブレダも顔を見合わせてため息をついた。
ホークアイになら着せられると思って受け渡したのに、彼女に捕まる寸前ぐるんとエドワードが空を切って回転し押さえていたふたりの背後に回った。
ホークアイの目の前だったため気を抜いていたせいであっという間に組み敷かれてしまったわけで、まったく、面目ない。

ホークアイが呆れたように笑ってエドワードの肩を叩く。

「中尉まで何なの?」

こうなるとホークアイも味方ではなさそうで、エドワードは注意深く身体を反らせた。

「仮装パーティーだから。わがまま聞いてくれないかしら?」
「か……?」
「仮装パーティー?」

固まったエドワードの後ろからアルフォンスが顔を出す。
エドワードの怪訝な表情とは真逆に思い切り期待を込めた顔。

確かに。

身体を取り戻してから初めての馬鹿騒ぎがあるかと思えば子供らしく胸は高鳴るだろう。

ちら、とハボックがその姿を見上げ、うう、と口元を曲げた。
未だに告げられない子供への恋心は、そりゃ大佐とエドがいいなら俺とアルだっていーじゃんかよ、という気持ちが日に日に募って行くが、それはあくまでアルフォンスが自分の申し出を受けてくれたらの話。
すっかり街の巨乳にときめかなくなってしまって……いったいいつから自分は稚児趣味になったんだか、とため息つきつつハボックは床に顔を押し付けた。

「私の独断と偏見で良ければエドワードくんにこっち、アルフォンスくんにはこっちが似合うと思うの。やっぱりエドワードくんは赤のコートがトレードマークだし」

にーっこりとホークアイが笑顔で仮装パーティー用の衣装をふたりに差し出す。

「僕にもあるんですか!?」
「アル!?」

ぎょっとしてエドワードが振り返る横をアルフォンスが嬉しそうに駆けて行く。

「ええ、もちろん」
「―――!!」

アルフォンスに衣装を渡しながらエドワードを見るホークアイにエドワードは恐怖のあまり絶句した。
こんなに彼女を恐ろしいと感じた事はない。

「じゃ、エドワードくんはこっちね」
「………………………はぃ」

開いた口が塞がらないで長い沈黙の後、エドワードはホークアイから衣装を受け取った。







「なんなんだっつの…!まったく……」
「いーじゃない。仮装パーティーなんて楽しそうだよ?」
「おっまえ、よく平気で………」

ブツブツ言いながら指令室に最近設置された仮眠室で着替えていたエドワードがアルフォンスに振り返って固まる。

「何?」
「………いや、あの…」

アルフォンスは怪訝な顔で兄を見返す。

アルフォンスに背を向けガバッと座り込みエドワードはぐるぐるする頭を抱えた。

何だ!!あの耳と尻尾は――――!!!
それも何だか似合ってるけどそれが正しい評価だと思えねぇ……!!

プルプルと肩を震わせ声にならない悲鳴を上げる兄に、アルフォンスは自分の後ろから垂れているやわやわとした尻尾をひょいと摘んで眺めた。

「可愛いよね、中尉お手製なんでしょ?すごい器用だよ。てゆーよりさ。兄さん………僕の格好より、自分の格好気にした方がいいんじゃないの……?大佐に見られたら……」
「……は……?」
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