『ひっ越し後』
□『猫のきまぐれ―服』…08/2/16
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「…何を着せたらいいんだ?」
クローゼットを開け放ち、マスタングは困った。
「女性もの…なんか渡したらどんな目にあうかわからないしな」
特に整理していなかった女性ものの衣類に、マスタングは眉と口元に引きつりを感じながら、はは、と空笑いした。
だからと言って、本当の女性のように自分のTシャツを渡してみたところでサイズの合わなさに、また自分の体の大きさあれこれを考えて怒り出すだけだ。
見る方としてはかなりイイ感じなのだが。
「……」
考えれば考えるだけ、何を着せたらいいのかわからなくなる。
「…はぁ…」
バスタオルでいるには少し寒いだろうし、衣服が乾く保証はないからそのまま宿に帰れる服装がベストなわけで。
「…そんなものは、ないな…」
あくまで視界に映る女性ものの衣類を無視しながら、マスタングはため息をついた。
「…エドワード」
寝室のドアを開け、マスタングは諦めて手招きをした。
「さみー!」
マスタングの声にエドワードが振り返ってダンダン、と飛び跳ねた。
選ばせるしかない。
風邪をひかせるよりは殴られた方がいいだろうと、マスタングは思ったわけだ。
「服は?」
「ああ、…うむ」
考え顔で言葉を濁すマスタングに、エドワードは怪訝な顔をして寝室を覗く。
大きなバスタオルは肩から羽織っていても膝上までを隠してくれるが、髪が冷えてきた。
「なに?」
「服の…サイズが…」
マスタングが顔を背け、口元を手で軽く押さえながら呟く。
「女性ものなら、合う物もあるかと思うんだが…」
もういつ怒鳴り声が響くかと、マスタングは構えながらちら、とエドワードを見る。
「〜〜〜〜っっ」
案の定、エドワードが思い切り歯ぎしりしながら睨んでいる。
「てんめ…!」
「いや、仕方ないだろう?私の物では大きすぎるし…!」
ダン、と床を踏み締めたエドワードに、マスタングが本気で慌てて一歩下がった。
「つーか!何で!女モンの服が!あ、ん、だ、よ!?」
「…ッあ、いや…捨てるのを忘れていただけだぞ?気にも留めていなかったから…」
目が三角になるんじゃないかと思うくらいに目尻を吊り上げたエドワードに、マスタングが悲鳴を上げそうだった。
いや、確かに自分が悪いのだが。
「うー………ッ。…ああ、もう…仕方ねーなぁ。帰る時に服、乾いてねぇかもしんないしなぁ…」
ひとしきり威嚇したエドワードは、まだおさまらない怒りにムカムカしながらも、渋々目の前の衣類の選別に入った。
「まぁ、シャツとか、ズボンとかあれば……」
マスタングに背中を向けて座り込み、クローゼットの前に出された衣類を探る。
「ん〜。…んー」
マスタングは落ち着かない面持ちで、低くうなるエドワードを覗き見る。
「あ、じゃあこれでいいか」
エドワードが選んだのは女性ものではなく、マスタングの寝間着用のシャツとトレーニング用のハーフパンツ。
それらを身につけながら、エドワードは低い声を出した。
「…おい」
「なんだね」
マスタングがビクビクしながら、それを隠そうと口元を覆って答える。
エドワードがもう一度バスタオルで頭を拭きながら、呟いた。
「…女が置いてったもの、全部捨てろよな」
「…う、うむ」
ふん、と鼻を慣らしてエドワードは寝室を出て行く。
「……………んん?」
マスタングは寝室のドアを見つめていたのだが、少しして、エドワードの怒りの理由を思い返した。
サイズのコトではなかったのか。
女性ものを着せられる事への怒りではなく、どちらかと言うと女性が前の恋人の気配に対して見せる威嚇のようだったな。
「お…や……?」
マスタングは数度瞬きをして納得し、込み上げて来たエドワードに対する愛しさに思わずくくく、と笑う。
エドワードは女性ものの衣類があることが気に食わなかったわけだ。
そうだな。
マスタングは頭をかきながらそれらをまとめた。
「…悪いが、ゴミになるか孤児院で可愛がられてくれ」
ぽんぽん、と積み上げた衣類を叩き、マスタングは寝室を出て行ったエドワードの後を追った。
→ まぁ、猫は気紛れですが、かなりヤキモチやきで、好きに構わせないくせに自分の気に入らないコトには猛抗議するもんです。
…可愛ったらないんですよ、それが(^-^;
MAGU
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