『ひっ越し後』

□『猫のきまぐれ』…08/2/13
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マスタングがバスルームの方へ体を向けたまま、視線だけエドワードに向ける。

エドワードはこちらに足を向け俯せた格好で、振り返っている。不満そうに口元を曲げて瞳にはどう見てもそばに来い、というふてぶてしさが浮かんでいた。

マスタングはそれを軽く無視して絨毯に投げ捨ててあるバスタオルを拾い上げる。

「……」

甘え下手なのは自覚しているつもりだが、エドワードはさっきのあれをああもあっさりかわされてしまうと、もう術がなかった。
逆に恥ずかしくなって、カップの紅茶をずず、とすすりながらまた本をめくろうとする。

「あ…?」

頭の上から伸びてきた手に、エドワードは本を取り上げられた。
代わりにくしゃ、とマスタングの大きな手が頭を撫でる感触が伝わり、エドワードはきゅ、と手を握ってうつむいた。
心音が上がって行くのと同時に顔が熱くなっていく。

まだ乾き切っていない髪を優しく撫でるマスタングの手が、子どもをなだめるものか、恋人に向けられるものか、エドワードは判断できずに顔を上げられない。

「…鋼の」

マスタングの手が髪をすいてそのまま首筋へ、顎へと動いて行く。

「…!」

エドワードがビクッとしてカップを落としそうになり、マスタングがそれをテーブルに戻す。

「…」

うつむく頬に当てられた手にはきっと、この熱が伝わっているはずで、エドワードはされるままマスタングの指の動きの行方を肌で感じる。

頬を包んでいた手が耳に触れ、スス、とまた頬を伝い顎を滑り、首筋を緩く降りて行く。手の甲や指の背で撫でる感触に、エドワードはかすかに肌を震わせる。

甘えたい。

自分のそれに気付いたのはバスタオルでガシガシと拭かれていた時。
不機嫌なマスタングを煽るほど構ってくれる。嬉しい、と楽しいが交ざった気持ちがむずむずして、込み上げる笑いが止まらなくて抱き付いてみた。
本当なら抱き締め返してくれるのを期待していたのに、マスタングは連れなかった。

「鋼の…」
「………ぁ…」

鎖骨辺りまで肌を辿った指に、エドワードが聞こえないくらい小さな声を漏らす。

したい、というよりは、甘えたい。
戯れたい。

マスタングがソファの前に片膝をついて腰を下ろし、後ろからエドワードの髪に唇を寄せた。

「…」

あまりにされるがままなエドワードに、マスタングが小さく呆れたため息をもらしてゆっくり、エドワードの耳にキスを落とす。
ピク、と反応する耳は全体がやわらかな赤みを帯びている。



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