『ひっ越し後』

□『軍服―昼』
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「な、ど、どうした…エド…??」
「う…」

あまりにいきなりな泣き顔にマスタングがあたふたとポケットからハンカチを出して、慌ててエドワードの目元を拭う。
普段なら絶対に人前でこんな醜態をさらさないエドワードの感きわまった表情に、マスタングはさすがにちょっと後悔をする。

そんな意地悪をしたつもりはなかったのだが。


「…ぅ…く…っ。う、うー…っ」
「エド?エド…。ああ、すまない…。私が大人げなかったよ」

顔を真っ赤にして、泣くのを止められずにしゃくり上げるエドワードに、マスタングはその顔を抱き寄せ額を合わせる。

「ぅ、…うーっっ」
「ぅわ…わ…」

一瞬小さくなった泣き声が、またぶり返す。

余計に声を上げたエドワードをどうしたら良いのかわからなくなってマスタングがもう一度涙を拭い、そっと口付ける。

「ーっ」

エドワードの声がふっと、消える。

それでもなんでこんなに。

込み上げる切ない気持ちにエドワードの瞳がまた濡れ、マスタングの頬にまで伝わって行く。

ぎゅっとマスタングの服を掴むと、気付いたマスタングがその腕を広げエドワードを包み込んだ。
「エドワード…?」
「…」

少し落ち着きを見せるエドワードがマスタングの胸に顔を埋め、確かめるように腕を回してくる。
マスタングの軍服と、彼のにおい。

これは正装なのだから、汗の匂いもしないし埃っぽくもない。血の、匂いもしない。
エドワードは、それでも自分がマスタングの軍服に包まれていることに、高まる気持ちが浸っていくのを感じて頬を擦り寄せて感触を確かめる。

憧れ。
畏怖。
拒絶。

全てが紙一重の感情。

エドワードの中で混じり合ったそれは、マスタングの軍服姿に対する特別な想いを募らせる。

だから…、好きだろう、と、でもそれは軍のものだと言われた事が見透かされたようで恥ずかしくて、苦しくて。

でも、彼を名前で呼ぶ時のあの高揚感はたまらなく気持ちを震えさせて、それすら知っているかのようなマスタングに、エドワードの羞恥心は限界に達してしまった。

こうしてただ、触れているだけで、抱き締められているだけで苦しいなんて。

まぜこぜのこの気持ちは、恋と、呼ぶべきなのか。
それがわからない自分の幼さが、悔しかった。
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