『ひっ越し後』

□『軍服―昼』
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そっぽを向くエドワードがもたれているイスの背に手を掛け、また上目遣いにこちらを見ているエドワードに体を寄せる。

「…」

軍の正装のマスタングの上着はいつもより堅い印象を与え、エドワードの心音が軽く上がった。

「大…」
「軍服以外の時は、名前で呼べばいい…」
「…」
「この服は国のものだ。それ以外は、君だけのものだよ、エドワード」
「……っ」

額に当たるマスタングの息にエドワードの頬がふわっと熱を帯び、動けなくなってしまう。

「違…っ」
「…んん?」

唇が当たった瞬間に、エドワードがふり払うように、伸ばしていた体をガバッと机の方へ戻す。
触れただけなのにそこまで拒絶されるとさすがにちょっとマスタングも傷つく。

「何が違う」
「〜〜〜」

せっかくの口説き文句が台無しになって、マスタングは呆れたような声を出す。
エドワードは、机に腕を乗せてそこにすっぽり顔を隠してしまった。

何言ってんだよ、こいつは。

軍服姿が好きなんだろうとか、軍服以外は全部俺のもんだとか…。
そんな女が喜ぶような台詞、よく恥ずかしげもなく…っ。

恥ずかしくなったのが自分の方だから、エドワードは耳まで熱いのを見られないように頭を抱え出した。

「そんなに私が嫌いかね」
「〜〜〜っ」

ふむ、と腕を組み、マスタングはその姿を見下ろす。

かなり、ショックだ。

エドワードは、余程の事がないかぎりマスタングのことを名前で呼ばない。
気をつけないと人前で呼んでしまいそうで怖いのだとか。だから、二人きりでもなかなか呼んでくれない。
それだって寂しいというのに。


「鋼の?」

すっかり沈み込んでしまったような彼に、マスタングは困ってしまう。

エドワードからしたら顔を上げるタイミングを外してしまった事に少し慌て始めているので、声とともに肩でも叩いて欲しいところだった。
が、本当にマスタングがぽん、と頭を抱える手を軽く叩くと、飛び上がった。

「ーッ」

「…鋼、の…?」

ガッタン!とイスを揺らしたエドワードにマスタングがあっけに取られて目を丸くする。

「…エド…?」
「…っ」

飛び上がって顔を上げたその見開かれたエドワードの瞳が潤みを見せる。
グルグルとした妄想で頭に血が上るほど恥ずかしくなって突っ伏していたエドワードの緊張が、マスタングの行為で弾け、一気に涙腺を切ってしまった。
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