『ひっ越し後』
□『副産物』A
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「あ、あっ…っっ」
「―っっ」
ビクーッとアルフォンスが飛び上がりそうになり、無意識に体が回れ右をして脱衣所に飛び込んでしまった。
「……はぁ…」
後ろ手にドアを閉め、アルフォンスがようやく息を吐いた。
実態を持たないはずの心臓が早鐘のように頭まで鼓動を伝える。
かいているはずのない額の汗を拭う仕草は、今の出来事に自分を落ち着かせるためのものだった。
「えー…っと…」
裏返りそうに声が動揺の大きさを物語る。
「と、とにかく…」
アルフォンスはガバッと使用中の札を引っ掴んだ。
腕の中から落ちるシャンプー類には目もくれず、そのまま脱衣所を飛び出してドアの前にその札を下げると、パン、と両手を合わせる。
ドン、とドアと壁に手を当てるとパァッと錬成反応が起きてチャリ…と鍵が出来上がる。
この鍵に兄が気付いたら、部屋に戻ってくるかもわからないが、今のアルフォンスにそんな余裕は全くない。
「もう…っっ」
ジダンダを踏んでアルフォンスが頭を抱えた。
「もう!兄さん鍵くらい掛けてよ――!!」
次の瞬間叫びながらアルフォンスはダッシュでその場を走り去った。
完全に驚きと怒りの焦点がズレていることに、気付くのはだいぶ後の事。