『ひっ越し後』

□『副産物』A
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アルはいろんな物を忘れて行った兄を追って温泉に向かう。

「タオル以外何も持ってかなかったんじゃない?兄さん」

シャンプーやら何やらを腕に抱え、呆れた声でぶつぶつ言いながら歩く。
エドワードは、錬金術以外に…というか、アルフォンスを気遣う事とそれ以外はけっこう、ずぼらだ。

気をつけないとシャワーを浴びないで眠るし歯を磨かない事もあるから、そのたびにウィンリーに叱られるよ、を持ち出して渋々やらせるのだが。

「いくら貸し切りだって、体洗ったり髪洗ったりしなきゃ駄目じゃん」

はー、とため息を付いて脱衣所のドアを開ける。

「鍵、付いてるんだ…。これも…」

内鍵と、使用中の札を見つけ、兄は全く気付かなかったらしい事に苦笑いする。

「兄さんらしいや」

さて、と浴場の方へ足を向けると、脱衣所には二人分の衣服がある事に気付く。

両端に置かれた物は、無造作に脱ぎ捨てられた兄のものと。

濃い青の軍服。

「あれ?」

ハボックとはさっきまでチェスをしていて別れたばかりだから、この軍服の持ち主はあと一人しかいない。

「げ、兄さん、大佐とはちあわせしちゃったんだ…っ」

書類整理にあと小一時間はかかりそうだ、と聞いていたのに、どうしたものか。

浴場からはエドワードの怒声は聞こえてきていない。

アルフォンスは恐る恐るドアノブに手を掛ける。
嵐の前の静けさか、こんなところで錬金術合戦でも始まってしまったらどうしよう。

「あ、大佐は発火布持って入らないか」

それにどうせ中は湿気で焔の錬金術師殿にとっては、あまり戦いに適した場所ではないだろう。

今さらエドワード相手に拳で闘うような熱いタイプでもない。
以前の二人の戦いっぷりを思い出してアルフォンスが、はは、と笑った。
まさかね。

カチャ…

「…失礼しまーす…」

モフッと視界を埋める湯気にちょっと身を引き、アルフォンスは様子を伺いながらドアを開けた。


「……っ。…、ー…っ…」
「……」

奥から話し声らしいものが聞こえてアルフォンスは二人のいる方を探した。
温泉とは言え、一応目上の人間が無防備な格好でいるところに無遠慮な態度で入るのは気が引ける。

「兄さー…ん」

手を口に添えて呼ぶ。

返事がない。
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