『ひっ越し後』

□『副産物』
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マスタングは、手にしたボトルをしげしげと眺める。

「こっちか…いや」

店の店員がその後ろ姿を見ながらコソコソと話す声が聞こえても、マスタングにとっては関係ないことだった。
だって、とても重要な買い物なのだ。人の目なんか構っていられない。

とは言え、ロイ・マスタングとは、自分が人にどう映るのか恐ろしく知り尽くしている。
それに、この身にまとった青がどれほど人目を引くかも。

それでも。

「んー…」

顎に手を当て、必要以上に頭をひねる。
目の前に二つのボトルを並べ、眉をねじ曲げて考え込んだ。

「…あの」

思わず声を掛けた店員の気配にも気付かない。
どう考えても不信人物。

「お土産ですか?女性でしたらこちらの方が人気ですが…」
「お…っ。それはいい。包んでもらえるかな?」

パッと顔を明るくし、満面の笑みで店員に返すと、奥からも物珍しそうに覗き込んでいた数人が小さく黄色い声を上げた。

そう。

お堅い軍服を着込んだ彼が年齢よりは若く見えても、ストイックな雰囲気の中に含む艶が年齢制限なく女性を引きつける。

「じゃ、じゃあ…これをおまけに…」
「ありがとう」

さっきまでの不信さを一気に振り払ったマスタングの感謝を表す笑顔に、店員が顔を赤らめながらボトルの他に小さな瓶を箱に詰めた。
何も言ってないのにきれいにリボンの掛けられた包み。

「あまりにたくさん種類があるのでね、助かったよ」
「あ、いーえ」

受け取った包みを小脇に抱え、もう一度ほほ笑むと、マスタングは奥の店員にもヒラヒラと手を振って店を出た。

「…♪」

足元が一瞬浮き上がりそうな気持ちを包みとともに抱え、マスタングは宿へと帰って行く。
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