『ひっ越し後』

□『0と100』(R高校生)
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「もう。兄さんはどうしてそんなに大佐にくってかかるのー?」

トランクを置いてアルフォンスが怒った口調で文句を口にする。

「んなとこまで来て大佐と一緒なんて考えただけでさみー…」
「少尉もいるし…。あ、僕、少尉に聞きたいことがあったんだ!」

バサッとジャケットを脱ぎ捨てる兄を不満げに見ていたアルフォンスが急に手を叩いた。

「兄さん、夕ご飯どうする?少尉に一緒にって言って良い?」
「ん、ああ」

あまり話を聞いていないところをついてアルフォンスが振る。

「え、あ、待った!アル!」

ガチャン

振り向いた時には扉が閉じていた。

「…それって、大佐もだろぉぉ…?」

ああ、と伸ばした手の先に消えてしまったアルフォンスに泣きたい気分だった。

アルフォンスはあまりに自分が意地を張るので、ちょっと諫めるためにわざと仕掛けたのだ。
見事に引っ掛かってしまった。

「ああ…っもう」

ガシガシと頭をかいてエドワードが口を尖らせる。

「…」

別に一緒が嫌なわけではない。
どちらかと言えば、まぁ、久し振りにマスタングにもハボックにも会えたことは、嬉しいはずだった。
たぶん、アルフォンスとハボックの前でマスタングに声を掛けられたり触れられたりするのが…、嫌なのだ。
照れ、というにはあまりに拒否反応が大きくて、きっとマスタングも呆れているはず。

最後に触れたのは、もう3ヶ月以上も前。

「…」

エドワードは手袋を取り、生身の指で唇に触れる。

「…っ」

瞬間過ぎったマスタングの伏し目がちな表情にクッと眉根を寄せて溜め息をついた。

マスタングの着る軍服の鮮やかな青が翻るのを思い出しながら、そっと窓の外を見た。






「あれ、アルと少尉は?」

食堂に入ったエドワードが、大きめの丸いテーブルにきれいに整えられた食事の支度を前に、両肘を乗せて組んだ手に顎を乗せたマスタングを見つけ回りを見渡した。
食器は4人分ちゃんと用意されており、真っ白なテーブルクロスは、いつも自分達が泊まる安宿のむき出しの木のテーブルとは天と地の差だった。
それでもあの、人間臭いガヤガヤした雰囲気がエドワードは好きだから、何だか落ち着かなかった。

「ん?ああ、少し遅れてくる。何かアルフォンスがハボック相手に熱心に話していたようだが?」
「ふーん、そっか…」

さっきもそんなことを言って部屋を出て行ったきり帰って来ないから、よっぽど何か興味を惹かれる事でもあるのか。

「こちらに座りなさい、鋼の」
「え、いいよ」

示された隣りの席を断り一つ開けて椅子を引く。ふう、とマスタングの口からため息がもれ、ちらとこちらに視線を流す。

「何をそんなにすねているんだ」
「す…っ。すねてなんかねーよ」

パッと頬が熱くなり、エドワードが視線を逸した。
これじゃ逆に真正面で向かい合ってしまうのか、と座ってからエドワードが舌打ちをする。
どこに座っても落ち着かないなんて。丸テーブルとは不便なものだ。

「先に始めるとしよう。私は昼を取れなくてね…腹ぺこなんだ」
「あ、そ…」

奥に控えているらしい給仕に手を上げてマスタングが微笑む。
エドワードは椅子に浅く座って背もたれに丸めた背を預けた体勢で両手をポケットに突っ込んだまま、運ばれてくる食前酒やらサラダやらを眺めた。

「なんだ?食べないのか?」
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