『ひっ越し後』

□『0と100』(R高校生)
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エドワードが目の前の宿の看板を、かなり不信げな顔で見上げている。

「どうしたのー?兄さぁん」

ガシャン、ガシャンと音をたてて後ろからアルフォンスが走って来た。
宿探しに歩き回っていた兄の後ろ姿を見つけ、駆け寄って来たのだ。

「アル…。どう思うよ、ここ」
「え?何か変なの?…あれ、…ここってもしかして」
「んー…っ」

エドワードが顔をしかめて腕組みをした。

目の前にあるのはどう見ても軍のマーク。
なんで軍用ではないはずの宿に。

「あ、でもそうすると、安く泊まれるんじゃない!?」

無邪気に喜声をあげてアルフォンスがエドワードを顔を覗き込んだ。

「…でも。温泉つき宿って…何だよ」
「んー…。この辺で温泉があるなんて聞かなかったよねぇ」

アルフォンスは早く入ってみたい気持ちでいっぱいなのだが、兄が警戒を解かないので説得する言葉を探していた。

「お…。大将!」
「え、少尉!?」

上から降ってきた声に、顔を上げてエドワードとアルフォンスがハボック少尉を見つける。

こんなところで、会うはずのない東方司令部の、ロイ・マスタング直属の部下。
晴れた青空にハボックの金髪が逆光の中で映えて光っていた。





「じゃあ、視察?」
「ん、そんなとこ。大佐の警護。明日んなったらブレダと中尉も来るぜ」
「…」

ドキッとエドワードは息を飲む。
彼の言う『大佐』はそのままロイ・マスタングを指す。

「大佐はどちらに?」

アルフォンスは装飾付きの木の椅子に姿勢よく座り、エドワードの紅茶が無くなったのを確認してポットを持ち上げた。

「うん?ああ、ちょうど買いたいものがあるとかで、外出中。着いてくんなって言われたんだよ。護衛役なのになー?俺」

あまり大きな街ではないが、この宿はそこそこ立派で、確かにマスタングなら軍用の狭くて薄暗い宿より自腹でこっちを選ぶだろう。
エドワードは、はは、と顔を引きつらせて椅子に片足を乗せた格好でそっぽを向いた。

こんな思わぬトコロであの嫌味な顔を拝まないといけなくなったわけだ。最近報告書の提出を怠っているから何を言われるかわかったもんじゃない。

「エド達もここに泊まるか?今なら軍用にしてあるから、他の客泊まんねーぞ」
「は?」
「…大佐の、貸し切り?」

エドワードとアルフォンスが目を丸くした。
どう考えても無駄な金の使い方だ。

「はー、嫌だねぇ。女でも連れ込むつもりなんじゃねぇのぉ?」
「人聞きの悪い事を言うんじゃないよ、鋼の」
「…げ」

呆れたようにわざと大きな振りで言ったエドワードの言葉にかぶせるようにマスタングの声が降ってくる。
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