『ひっ越し前』

□『正夢』
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「どわっっ」

エドワードがベッドから飛び起きた。

「に、兄さん??どうかしたの?」

隣りのベッドに腰を下ろして本を開いていたアルフォンスが慌てて立ち上がった。

「あ? あ、なん、でもねぇ」

というわりにはかなり肩で息をして額の汗をぬぐう姿はただ事ではない。
エドの心臓は肋骨に叩きつけられるような強さで動いている。

最近は報告書を提出するために徹夜が続いた。つい昨日はそんなエドを気遣ってアルが寝かせたのだ。


「うわ…、嫌な夢見たーっ」

青ざめた顔でエドはため息をつく。いくつか大きく息をすれば少しは落ち着くだろうか。

「どうしたの? 怖い夢?」
「ん、んー…。ある意味かなり怖いけどなぁ」

ケッと吐き捨て、まだ緊張したをままの体を引き起こしてベッドから出る。

今日こそは報告書を持って行かないと。それもなるべくならあの大佐がいない時刻を狙って…。


「夕方?」
「昼飯後は?」

エドが考えている事はお見通しのようで、アルが笑った。

「なんでなの? 別にいいじゃない、大佐に会うのだって久しぶりでしょ」

笑ったのなんかわからない鎧の顔でもアルがからかうような表情をしているのがわかる。
シャツを着ていたエドが肩越しに嫌そうな声を出した。

「あー?だってよお、俺にとっては特に収穫のなかった時の報告書なんて、…大佐のからかいのネタにしかなんねーだろうが」
「でも今回は大佐が回してくれた情報なんだから、『もっとちゃんと裏のある情報をくれ!』って反対に言えるじゃない。…そうじゃなくても兄さんの場合は逆ギレするでしょ」

はあ、とアルがため息をついて体を丸める。
また執務室での二人の言い合い、正確にはエドの一方的な暴言、を止めに入らなくちゃいけないのかと思うとそれは暗くもなる。

「じゃあ…俺ひとりで…あっ! ダメだダメ! アルお前持ってってくんねー?」

一人で、というのを考え直したどころかアルにいきなり報告書の封筒を押し付けた。

「え、エー!? 何言ってんのさ!兄さんの報告書でしょー? いくら大佐に見せる顔がなくても僕に押し付けないでよ」

ガシャン、と一歩歩み出てアルは封筒をつき返す。

「いーじゃんかよ!俺は疲れて寝ています、とかなんとか言っとけ!アルが言えば大佐だって文句言わねーよ」
「だめ!自分の事は自分でやりなさい!かあさんだってそう言うよ!」

今度は鎧の顔が怒って見える。

「〜」

母親を持ち出されてはこれ以上押せなくなる。

「わかった、よ」

苦虫を噛み潰したような顔で封筒を握り締めた。
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