『ひっ越し前』

□『こどもの疑問』
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「なあ、大佐」

 エドが執務室でロイの椅子にどっかと座り、くるりと回転する。

「なんだね」

 自分の椅子を取られてしまった当の本人はソファに座ってエドワードが来る前にホークアイが急かして置いて行った書類にをサインをしようとしていた。その手を止め、視線だけをエドに向ける。

「ぜんりつせん、て何?」
「…男の体の一部でって…は?」

 ポロっと手から万年筆が落ちた。
 いたって普通の表情のエドに、ロイは口をぽかんと開けたまま瞬きをする。

「…鋼の、き、急にどうした」

 ハハハハ、と乾いた笑いを発していても頭の中は色々な思いが駆け巡った。

 いったい何を言い出すのか。何も知らない子供はこういうところで大人を困らせる。

「ん? いや、この間図書館で調べ物してたらさあ…、なんつーの? エロ日記みたいなの見つけたんだよな」

 エロ日記??

「錬金術は確かに暗号化しておくものだけど、そいつのってあっちの娘がどーしたこーした、どこそこのうちの息子があーだこーだって批評みたいのでさ。ついでになんか妄想入ったエロ日記になってんの。こうしたいああしたいって」

「そ、そうか。…で、何で前立腺…」

 ほんとにそれは錬金術の本なのか、と突っ込みたいロイだったがエドがいかにも大人ってな、みたいな呆れ顔で溜息ついて笑うものだから単なるわからない単語への興味なのかもしれないとも思った。

「大佐、自分の前立腺の場所ってわかんの?」

 ロイは目を閉じて奥歯を噛んだ。エドの表情から、からかっているような色が見えたからだ。

 そういうことか。

「さあな。…チビだチビだと思っていたが君もそんなお年頃だったか」

 とんとん、と書類を机で叩いて揃えるとロイは横目でエドをちらりと見る。

「ああ? んだとコラ! …ってまぁ、そうだな。俺だって男だからな」

 一瞬ガッタンと椅子を倒す勢いで立ち上がったが、机に両手をついてエドがこらえた。
 その姿がおかしくてロイのほうは口元を歪ませて笑いを堪える。

「あの金髪のかわい子ちゃんに相手にしてもらえないというわけか。私が女性の心を捉える術をおしえてやろうか?」

 新しい書類の束を手元に引き寄せながらロイはちょっと自慢気な視線をエドに向ける。
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