『番外*花町』
□『番外コネタ 其の五』
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春が来た
「う…、み゛ぃ……っっ」
エドワードは布団の中で尻尾を抱えて足を突っ張った。
「エドワード!?」
「ふぎゃ……っっ」
ガタ、とふすまを叩き心配そうなロイの声が聞こえ、エドワードはなおさら尻尾で顔を覆った。
「ど、ど、どうなって……っっ」
頭がまぜこぜになりエドワードは目眩がした。体の状態が、自分でどうにもならないのだ。
「エドワード!!」
「み゛、ぎゃ!!!」
ロイの声にぶわっと毛を逆立て、エドワードが殺気立った叫び声を上げた。
十分ほど前、エドワードはいつものようにロイのお酌をしていた。
ただ少し今夜は熱っぽくてだるくて、何度かため息をついていたから、ロイが心配そうに手の甲でそっと頬を撫でた。
とたん。
「ふみゃ……」
「んん?」
口をついたおかしな声に視界がぼんやりしていたエドワードは、ロイが目の前であんぐり口を開けたものだから、それが自分の声だと知った。
軽く紅潮した頬と、酒で照るふっくらした唇、伏し目がちなエドワードに、ロイはとたんに心拍が上がっていった。
「どう…した?」
「…んん、触ん、……にゃ…。ぅ、む………!?」
「…エ、ド…?」
口が回らない。
どうしても何だか変な鼻を抜ける声になって、聞いたロイが思わず手を引っ込めるのを見て、エドワードは手で口を塞いだ。
まずい。
この手の声は男の客には誘ってると思われる。
くう、と奥歯を噛んでエドワードが袖を口に押し込むようにして声を押さえ込み、ロイに背を向け突っ伏した。
「エドワード?大丈夫か?具合が悪いのか?」
ロイの声は真剣なものになり、慌ててエドワードの背中を擦った。
酒を飲み過ぎたか。
「ひ…みゃん!ぅ…っっ」
「―…っ」
ビク、とエドワードの耳が張り詰め、ロイは手を放した。
エドワードが体を丸めてぷるぷると小刻みに震えている。
「あ、ち…行って…」
「エド…」
「行けっ…て…っっ」
咳き込むような苦しい息遣いに、そのままにしておくには心配なのだが、ロイは仕方なく立ち上がり、部屋の外に出てふすまを閉め、様子をうかがう事にした。
ロイがふすまを閉めるとエドワードはとにかくガバッと押し入れを開け、埋もれそうになりながら布団を引っ張り出した。
膳も徳利もドカドカひっくり返し、着物が肌蹴るのも気にせず飛び込むように布団に潜り込んだ。
「うんん〜〜っ」
朝から体がぼうっとしていたから、風邪でもひいているのかと思っていたのに。
「ふ…ん、んんー…っ」
涙目を力一杯つぶり、エドワードは足をばたつかせた。
足が、足の付け根がジンジンと熱い。
ぎゅう、と尻尾を抱き締めてて耳をぴったり寝かせ、エドワードは何だかよくわからない体の高揚感に息が荒くなってきた。
「…もし、かし、…て」
エドワードは恐る恐る爪をしまった手を腹の下辺りへ忍ばせた。
「……ぴ……っっ」
随分と可愛らしい悲鳴を上げ、エドワードは手の先に触れる張り詰めた下肢の違和感に目を見開いた。
「……なん、で……」
ロイが来てる時に。
いや、客がロイで良かったのか…。
「うう…っん…っみゃう……んっ」
それでもとにかくこの状態は。
エドワードが布団の中で七転八倒する。