『あくまでいちゃラブなロイエド』

□『棘のある原石』7/23
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「………そこまで嫌がる理由は、…何かな…?」

マスタングは床に両膝をついて伸ばした手の先で、おぞましい物でも見るようにのけ反り顔を引きつらせる相手に、ショックを受けながら問い掛けた。

「い、や、だあああ!」
「ぅわ……っっ」

世話係の女性の腕をガシッと掴み、少年が叫ぶ。
マスタングもつられて悲鳴を上げた。


面会室からの悲鳴に、小さな孤児院はどよめいていた。




* * * * * * * * * * *


「エドワード…、どうしたの」
「何だよ!何で、こいつ……!?」
「こいつ、とはあんまりだな」

宥める30代程の女性の服をきつく握り締める少年の刺々しさに、マスタングは困ったように苦笑した。
とたんに、キッと吊り上がった金色の瞳がこちらを睨み、疑うように色を深めた。
ん?と、マスタングは片眉を上げて何か言いたそうな相手を見ると、エドワードと呼ばれる少年は、きゅ、と眉をひそめて口をつぐんでしまう。
お前と話す気はない、とでも言うように。

「あなた、マスタングさんの事、知ってるでしょう?とても興味がありそうだったのに、どうしたの…」
「ほぉ。…私を、知っているのか?鋼の君」
「………っっ。なんだよ!その、呼び方……っ」

もぞ、と身体をずらし、エドワードは服の上から自分の右腕を掴む。手には白い手袋、足は派手にイカツいブーツ。
いぶかしむ顔で尚さら距離を取るエドワードに、マスタングは嘆息した。

「機械鎧だと、聞いているからね。…気に入らないなら呼ばないよ、エドワード」
「――――!?」

名前で呼び直したマスタングが穏やかな笑みを見せ、エドワードの表情がパッと変わった。
瞳が一瞬だけ明るくなり、引きつらせていた頬に赤みが戻る。

「私を知っているのかな?」

マスタングはその機会を逃さなかった。少し前屈みに膝へ両肘をついて組んだ手に顎を乗せ、笑みの残る視線をエドワードに流す。
釘付けになったように動きを止めたエドワードが数秒後、我に返って瞬きし、不機嫌な顔で視線を落として胡座を組んだ。
ようやく落ち着いた様子のエドワードに、側にいる女性から安堵のため息がもれ、そっと部屋を出て行く。
カチャン、と静かにドアが閉まると、会話のない二人の間にはざわざわと孤児院での生活音が流れ込んで来る。

「…………」

ふて腐れて頭に上った血が下がらないのか、赤い顔のエドワードが、それでも逃げ出したりせずその場に居る事にマスタングはホッと一息ついた。
最初の反応からしたら、二人になれたのは奇跡に近いかもしれない。


ロイ・マスタング国軍大佐が、直々に孤児院へやってきたのは、国内で頻発している内線やテロによりもたらされる二次災害、孤児増加を調査するためだった。
孤児を作った張本人である軍が情けを掛けるような態度に、マスタング自身はいささか辟易としていたが、大総統からの命には逆らうつもりはなかった。
狸どもから押しつけられるデスクワークに飽き飽きしていたし、部下たちも子どもの相手が出来ると楽しみにしていた。
自分が抜擢されたのも理由があるだろう。
イシュバールの英雄、若く見目の良い国軍大佐、そして人間が畏怖をも感じる焔を操る国家錬金術師。

どれを取っても孤児院には忌み嫌われる肩書きでありながら、マスタングの異性から受ける評価はどの軍人より高い。
異性から、と言うのが一番重要で、何せ孤児院を営む慈悲深い者には女性が多いのだ。
老若問わないマスタングの人気からしたら、正しく適材適所となる。

しかし。

「………鋼の…、いや、エドワード?」
「―――――」

そう、相手が女性までなら誰よりマスタングが適任なのだが、孤児本人には、まったく、通じないのだ。

目の前の少年はこれ以上もないくらい嫌そうで、子どもらしい敵意をむき出しにしている。

面会室にはソファのかわりに大きなラグが敷いてあり、これまた大きなクッションが置かれている。
孤児院には小さな子供や乳児もいる。本来の目的、里親探しには触れ合いを大切にするためだった。
だから、エドワードと向き合って、さて話を、となった時、エドワードが思い切り拒絶してラグを後退り、満面の笑顔で手を差し出していたマスタングはその悲鳴とも怒声とも取れるそれに一瞬、金縛りに遭わされて固まった。

「改めて自己紹介しようか。…私はロイ・マスタングだ。…」
「地位は国軍大佐、焔の錬金術師、だろ?」

咳払いをして仕切り直したはずの自己紹介の続き、一番の見せ場な部分を被せるように先に言われ、マスタングは呆然とした。

孤児院の女性と、お茶でもした事があったかな?

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